イェーダーマン

『イェーダーマン』は、オーストリアの詩人・劇作家であるフーゴ・フォン・ホーフマンスタールが手掛けた戯曲です。1912年にベルリンで初演され、15世紀末にイングランドで隆盛した道徳劇の伝統に連なる寓意劇として位置づけられています。特に、16世紀ドイツのメイスタージンガー、ハンス・ザックスによる『富める人の劇』から着想を得て創作されたとされています。

「イェーダーマン」（Jedermann）というタイトルは、ドイツ語で「あらゆる人」を意味し、主人公が特定の個人ではなく、普遍的な人間の代表であることを示唆しています。英語圏ではしばしば「エヴリマン」（everyman）と訳され、作品の主題である「すべての人間に訪れる生と死、そして救済」を象徴しています。

物語の主人公は、壮年期を迎えた裕福な男性、イェーダーマンです。彼は日々の生活において、富の蓄積にほとんどの力を注いでいます。隣人の貧者にはわずかな施しを行う程度の慈悲心は持ち合わせていますが、金銭を返済できない債務者からの哀願には耳を貸さず、母からは敬虔な生き方を強く勧められます。

ある日、イェーダーマンは友人や恋人を招いて盛大な宴を開きます。その最中、突如として鐘が鳴り響き、彼を冥界へ導くべく死神が登場します。突然の運命に直面したイェーダーマンは、宴に集まった友人や恋人に助けを求めますが、誰一人として共に旅立とうとはしません。さらには、彼が生涯をかけて崇拝した富の神（マモン）からも見放されてしまいます。絶望の淵に立たされた彼の前に現れるのは、衰弱した女性の姿をとる「善行」です。善行は、その姉である「信仰」を呼び覚まし、イェーダーマンの内にある信仰心を問い直します。改心し心から祈りを捧げたイェーダーマンは、善行と信仰、そして天使たちの守護のもと、心穏やかに安らかな最期を迎えるのです。

この作品は、1912年にマックス・ラインハルトの演出により、ベルリンのシューマン・サーカスで初めて上演されました。そして、1920年、ホーフマンスタールはリヒャルト・シュトラウスやラインハルトと連携し、中世ヨーロッパの中心地であったオーストリアのザルツブルクで音楽祭を構想します。同年8月22日、ザルツブルク大寺院前広場での野外上演が実現した『イェーダーマン』によって、この音楽祭は記念すべき幕開けを飾りました。以来、ザルツブルク音楽祭における大寺院前広場での『イェーダーマン』の野外上演は、今日に至るまで毎年恒例の象徴的な演目として上演され続けています。この上演形式は、作品の寓意性とザルツブルクの歴史的な景観が見事に融合し、多くの観客を魅了しています。

参考文献：岩淵達治編 『現代演劇101物語』 新書館、1996年

外部リンク：プロジェクト・グーテンベルク、Zeno.orgにて原文閲覧可能。

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