イエスの方舟事件

イエスの方舟事件とは

イエスの方舟事件とは、1979年から1980年にかけて、新宗教団体「イエスの方舟」がマスコミから激しいバッシングを受けた事件です。

イエスの方舟の成立

「イエスの方舟」は、主宰者の千石剛賢（せんごくたけよし）が1960年に東京都国分寺市で始めた聖書勉強会が起源です。千石は、1923年に兵庫県で生まれ、戦後、様々な職を転々とした後、聖書研究会に参加。その後、メンバーとともに共同生活を始めました。

1975年頃に「イエスの方舟」と改称し、家庭に居場所がないと感じていた人々が、千石の活動に共感して集まるようになりました。信者の多くは若い独身女性でしたが、男性や既婚女性もいました。1978年、千石の体調不良と布教活動の停滞を理由に、千石と信者たちは全国を転々とすることになります。

事件の経緯

信者の家族は、捜索願を出すとともにマスコミに告発。これに対し、まず『婦人公論』が「千石イエスよ、わが娘を返せ」と題する手記を掲載し、千石を糾弾しました。続いて、『産経新聞』も反イエスの方舟キャンペーンを展開し、他のマスコミも「千石ハーレム」「現代の神隠し」といった表現で報道を過熱させました。

1980年2月には、国会でもこの問題が取り上げられ、警察が本格的に捜査を開始。イエスの方舟は、社会的に大きな注目を集めることになります。

この間、イエスの方舟の信者からマスコミに手紙が届きますが、多くのマスコミは千石が書かせたものと無視しました。しかし、『サンデー毎日』は、イエスの方舟を偏りなく評価し、冷静な報道を続けました。当時の編集長である鳥井守幸は、手紙の真摯さに感銘を受け、他のマスコミから批判されながらも、一貫して公平な報道を貫きました。

1980年6月、『サンデー毎日』の仲介で、イエスの方舟の信者は上京。鳥井は、信者が普通の女性であることに驚きました。その後、千石はサンデー毎日の取材を受け、独占会見記事が掲載され、他のマスコミはこれに反発。事態は、メディア戦争へと発展しました。

同年7月、千石らに逮捕状が出ますが、千石は持病で入院。その後、信者が記者会見を行い、乱れた性行為があったのではないかという質問に対し、「夫婦以外の性的関係はない」と否定しました。

捜索願が出されていた信者は親元に帰され、千石はその後、警察に出頭しましたが、任意調査にとどまり、不起訴処分となりました。

事件後

千石は、事件後、福岡で「シオンの娘」というクラブを経営。飲酒や同伴は一切なく、客は平等に扱われました。1993年には、「イエスの方舟会堂」を建設し、2001年に78歳で死去しました。「シオンの娘」は、千石の死後も信者によって運営されていましたが、建物の老朽化により2019年に閉店。その後、移転し現在も運営されています。

マスコミの報道姿勢

イエスの方舟に対するマスコミ報道は、バッシングを主導した『婦人公論』、『産経新聞』と、それに反論した『サンデー毎日』という対立構造が特徴です。社会学者の山口昌男は、マスコミ報道が「聖なる怪物」型の神話に則り、読者の好奇心を煽ったと分析しています。

また、この事件における過剰なバッシングは、後のオウム真理教事件におけるマスコミの批判の躊躇につながり、結果的に被害を拡大させたという指摘もあります。

事件を題材とした作品

イエスの方舟事件は、テレビドラマや映画など、様々な作品の題材にもなっています。

ドラマ・人間 第3話『イエスの方舟事件』（テレビ朝日）
イエスの方舟 （TBS）
贖いの聖者（漫画）
方舟にのって 〜イエスの方舟45年目の真実〜 (ドキュメンタリー映画)

参考文献

「イエスの方舟」漂流後の二十年（『新潮45』2001年１月号掲載）
千石剛賢 『父とは誰か母とは誰か-「イエスの方舟」の生活と思想』
サンデー毎日編集部（編集）『イエスの方舟-同乗漂流』
芹沢俊介『「イエスの方舟」論』
千石剛賢『隠されていた聖書-なるまえにあったもの』
鳥越俊太郎『ニュースの職人』

外部リンク

渡辺良智　マスコミが事件をつくった : 「イエスの方舟事件」の報道をめぐって
手作り料理＆ショーの店 イエスの方舟シオンの娘

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