イエローカード (予防接種)

イエローカードとは

イエローカードは、正式名称を英語では International Certificate of Vaccination or Prophylaxis (ICVP)、フランス語では Certificat international de vaccination ou de prophylaxie (CIVP) といい、「予防接種の国際証明書」として広く知られています。この証明書は、世界保健機関（WHO）が定める国際保健規則（IHR）に基づき発行されるもので、特定の国へ渡航する際に、入国検疫手続きの一環として提示を求められることがあります。

根拠となる規則

国際保健規則第31条第1項では、原則として予防接種を旅行者の入国条件として要求すべきではないと定めています。しかし、その例外として、規則の附録第6および第7に定められた基準に従い、すべての旅行者に対して予防接種証明の提示を求める場合が認められています。また、規則第36条第2項では、このイエローカードに記載された特定の疾病の流行地域から来た旅行者であっても、有効な証明書を所持していれば、その疾病を理由に入国を拒否されないことが規定されています。

対象となる疾病の変遷

イエローカードが対象とする疾病は時代とともに変化してきました。かつてはコレラ、天然痘、黄熱の3つの感染症が対象でしたが、伝染病の撲滅や疫学状況の変化に伴い、対象から外れた疾病があります。

コレラ: 1973年の国際保健規則の改定によって、予防接種証明の対象から外れました。
天然痘: 1980年5月8日に世界保健機関が天然痘の根絶を宣言した際、予防接種も原則廃止され、イエローカードでの証明運用も終了しました。1981年の規則改定で、関連する文言も削除されています。
黄熱: コレラと天然痘が対象外となった1980年以降、長らく黄熱のみがイエローカードの対象となっていました。WHOが黄熱の伝染リスクがあると指定した地域を旅行する際には、その国へ入国するための条件として黄熱の予防接種証明書の提示が求められることがあります。有効な証明書を提示できない場合、黄熱の媒介者が存在する国では、最長6日間の潜伏期間中、あるいは証明書が有効になるまでの短い期間、隔離措置が取られることがあります。黄熱の予防接種証明書は、接種から10日後に有効となり、一度接種すれば原則として生涯にわたって有効です（2016年7月11日以降）。使用するワクチンはWHOによって承認されたものでなければなりません。
新型コロナウイルス感染症（COVID-19）: 2021年7月2日のWHOの暫定的な勧告により、各国当局はCOVID-19の予防接種の記録としてイエローカードを使用することが可能となりました。ただし、WHOは、いかなる接種証明書も出入国の必須要件として使用すべきではなく、検査や検疫の免除目的で使用されるべきであるとの見解も同時に示しています。

国際保健規則の規定（第36条第1項および附録第6第1項）に基づき、WHOの勧告がある場合には、上記以外の疾病についても予防接種証明が準拠した運用となる可能性があります。

証明書の書式

イエローカードの具体的な書式は、国際保健規則の附録第6に定められています。記載が求められる主な事項には、証明を受ける人の氏名、生年月日、性別、国籍、署名、対象となる疾病名、予防接種を受けた日付、予防接種を実施・監督した医師（または権限のある医療従事者）の署名と職位、使用されたワクチンの製造者と製造番号、そして証明書の有効期間などが含まれます。これらの項目は英語またはフランス語で記入することが必須ですが、他の言語を併記することも認められています。子供に対しても個別に証明書が必要で、保護者が代理で署名します。証明書は、実施を監督した医療従事者の自筆署名と、予防接種を実施した機関の公印がなければ無効とされます。なお、イエローカードの色に関する国際的な規定はないため、黄色以外の色の証明書も存在します。

日本における扱い

日本国内で発行されるイエローカードは、検疫法施行規則様式第6の1として規定されています。大きさはおおよそA6サイズで、表面に必要事項の記入欄、裏面に国際保健規則で定められた注意書きがあり、すべての内容が日本語と英語で併記されています。

ただし、COVID-19に関しては、日本ではイエローカードではなく、各市区町村などが発行する「新型コロナウイルス感染症予防接種証明書」が主に用いられています。この証明書の様式や記載内容は、国際保健規則に基づくイエローカードとは異なります。また、2021年9月27日時点の情報では、日本政府は海外からの入国者が検疫における待期期間短縮を申請する際、日本国内で発行された証明書または所定の国・地域の政府等公的機関が発行し、日本語または英語で記載された証明書のみを有効としており、これに該当しないイエローカードによる待期期間短縮は認めていませんでした。

COVID-19ワクチンパスポートとの関連

COVID-19の世界的流行を受け、イエローカードのような予防接種記録を電子的に管理し、リアルタイムで確認できるシステムの開発が国際的に進められています。これらは一般に「ワクチンパスポート」などと呼ばれ、国際規格団体や関連機関がプライバシー保護や偽造防止に配慮した規格化に取り組んでおり、日本企業もその議論に参加しています。

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