イオバテース

古代ギリシア神話に語られるリュキアの地を統治していた王がイオバテース（古希: Ἰοβάτης）である。その名は長母音を省略して「イオバテス」とも表記されることがある。彼は英雄たちの物語に深く関わる重要な人物として登場する。

イオバテースには複数の娘がいたことが知られている。その中でも特に名が挙げられるのは、ステネボイア（あるいはアンテイア）と、ピロノエーである。ピロノエーには他にもカッサンドラー、アルキメネー、アンティクレイアといった異名や異伝が存在する。これらの娘たちは、後の神話的な出来事において重要な役割を担うことになる。

イオバテースの治世において、アルゴス王アクリシオスによって故郷を追放されたプロイトスが彼の宮廷に身を寄せた。イオバテースはプロイトスを温かく迎え入れ、自らの娘であるステネボイアを彼の妻として与えた。さらに、イオバテースは自国の軍勢を率いてプロイトスを支援し、共にアルゴスへと進軍した。その結果、プロイトスはティーリンスの地を確保し、そこの王となることに成功したのである。この同盟関係は、後にイオバテース自身に予期せぬ形で影響を及ぼすことになる。

しばらく時が過ぎた後、ティーリンスの王となったプロイトスは、ある一人の若者をイオバテースのもとへ送ってきた。その若者こそ、後に英雄として知られるようになるベレロポーンであった。

イオバテースは到着したベレロポーンに対し、いくつもの過酷な任務を課した。それは、到底人間には不可能と思われるような難業ばかりであった。具体的には以下の任務である。

恐るべき怪物キマイラの退治。キマイラはライオンの頭、ヤギの胴体、ヘビの尻尾を持ち、口から火を吐くという、リュキアの人々を苦しめる存在であった。
好戦的なソリュモイ人との戦い。彼らはリュキアの隣国であり、常に脅威であった。
* 勇敢な女戦士たちの部族であるアマゾン族との戦い。

イオバテースは、これらの困難な任務のいずれかでベレロポーンが命を落とすだろうと目論んでいたのである。

しかし、ベレロポーンは神々の加護や自身の勇気、そして伝説の有翼の馬ペーガソスを駆る能力によって、これらの試練を見事に乗り越えていった。彼はキマイラを討伐し、ソリュモイ人やアマゾン族との戦いにも勝利を収めた。

それでもなお、イオバテースはベレロポーンの排除を諦めなかった。彼がリュキアへと帰還する途中、イオバテースは自国の精鋭兵を待ち伏せさせ、ベレロポーンを急襲させようと企てた。しかし、ベレロポーンは待ち伏せていたリュキア兵を全て打ち破り、無傷でイオバテースのもとへと戻ってきたのである。

度重なる困難を乗り越え、さらに自国の精鋭部隊までも退けたベレロポーンの姿を見たイオバテースは、彼が単なる人間ではなく、神々の子、あるいは神々に愛された特別な存在であると確信するに至った。その驚異的な能力と不死身とも思える強さに畏敬の念を抱き、イオバテースはもはやベレロポーンを敵視することをやめた。

むしろ、彼はベレロポーンを丁重にもてなし、自らの娘であるピロノエーを彼の妻として与えることにした。そして、リュキア王国の領土の半分をベレロポーンに分け与え、共に国を治めるように懇願したのである。こうして、イオオバテースとベレロポーンの間には和解が成立し、リュキア王国は新たな時代を迎えることとなった。

イオバテースは、プロイトスとの同盟、そして英雄ベレロポーンへの試練とその後の和解といったエピソードを通じて、古代ギリシア神話においてリュキアという地を舞台にした物語の重要な推進力となる王として描かれている。彼の決断と行動は、プロイトスの復権やベレロポーンの英雄譚の展開に不可欠な要素となっている。

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