ステネボイア

概要

ステネボイア（古希: Σθενέβοια）は、古代ギリシア神話に登場する女性です。主にアルゴリス地方の都市ティーリュンスの王プロイトスの妻として知られており、ホメーロスの叙事詩『イーリアス』ではアンテイアという名前で言及されています。

系譜

彼女の出自には複数の伝承があります。
有力な説: 小アジアのリュキア地方を支配していた王イオバテースの娘で、ピロノエーという姉妹がいたとされます。
別の伝承: アルカディア地方の王アペイダースの娘で、テゲアーの王アレオスと兄妹であったとも語られます。

家族

ティーリュンス王プロイトスとの間には、娘のイーピノエー、イーピアナッサ、リューシッペー、そして息子のメガペンテースをもうけました。

神話：ベレロポーンとの悲劇

プロイトスとの結婚

ステネボイアとプロイトスの結婚は、プロイトスが兄アクリシオスとの争いに敗れて国外へ追放され、父であるイオバテースのもとに身を寄せていた期間に成立したと伝えられています。この婚姻を通じて、プロイトスはイオバテースの軍事的援助を得ることができ、その力によってアルゴス地方へ帰還し、ティーリュンスを支配下に置くことができました。

ベレロポーンへの恋と拒絶

後に、コリントスを追放された英雄ベレロポーンがプロイトス王のもとに身を寄せ、歓待を受けました。この滞在中、王妃ステネボイアは若く美しいベレロポーンに激しい恋心を抱き、彼を誘惑する手紙を送りました。しかし、敬虔で高潔なベレロポーンは王妃の誘惑を断固として拒否しました。

夫への讒言

ベレロポーンに拒絶されたステネボイアは、激しい怒りと屈辱を感じ、態度を一変させました。彼女は夫であるプロイトス王に対し、「ベレロポーンが自分に誘惑の手紙を送ってきた」と虚偽の報告をしました。この讒言を真に受けたプロイトス王は、客人であるベレロポーンに直接手を下すことを避け、彼をリュキアにいる舅イオバテース王のもとへ使いに出すことにしました。プロイトスは、持たせた手紙の中に「この手紙の主（ベレロポーン）を殺してほしい」という依頼を記していました。

ベレロポーンの試練と結婚

手紙を受け取ったイオバテース王は、客人に直接手をかけることをためらい、代わりにベレロポーンに達成困難ないくつかの難題を課しました。これには、恐ろしい怪物キマイラの退治などが含まれていました。しかし、ベレロポーンは神々の助けを得てこれらの難題を次々とやり遂げました。ベレロポーンの勇敢さと高潔さに感銘を受けたイオバテース王は、彼に対する殺害の意図を捨て、自らの娘であるピロノエー（ステネボイアの姉妹とされる）と結婚させました。

ステネボイアの最期（主流伝承）

ベレロポーンがイオバテース王の娘ピロノエーと結婚したことを知ったステネボイアは、自らの企みが失敗に終わり、かつベレロポーンが高潔さを保ったまま娘と結ばれたことに絶望したのでしょう、自ら命を絶ったと広く伝えられています。

ステネボイアの最期（別伝）

ステネボイアの最期については、異なる伝承も存在します。特に、古代ギリシアの三大悲劇詩人の一人であるエウリーピデースが執筆した悲劇『ステネボイア』（現在は散逸）の古伝梗概には、以下のような記述があります。
キマイラ退治などの難業を終えたベレロポーンは、プロイトス王のもと、すなわちティーリュンスへ帰還しました。
彼は自分に危機をもたらしたステネボイアを脅迫しました。
これに対し、ステネボイアは再びベレロポーンを陥れるための策略を企てました。
しかし、ベレロポーンはステネボイアの計略を察知し、彼女を捕らえました。
そして、自身の駆る有翼の馬ペーガソスに乗せて飛び立ちました。メーロス島の上空まで来たとき、ベレロポーンはステネボイアを天空から海へと突き落とし、殺害しました。
海に落ちたステネボイアの遺体は、後に漁師によって発見され、プロイトス王の宮殿へと運ばれたと語られています。
この伝承では、彼女は自殺ではなく、ベレロポーンによって直接殺害されています。