イガイ

イガイ（貽貝、淡菜）について

イガイ（学名: Mytilus coruscus）は、イガイ科に分類される二枚貝の一種です。日本では古くから食用とされ、地域によって多様な呼び名があります。外見は外来種のムラサキイガイに似ていますが、いくつかの点で区別できます。

形態

成貝は殻長12-15cm、殻幅6cmに達し、殻は厚く、やや膨らんでいます。表面は褐色を帯びた黒色で光沢があり、殻の内側は青みを帯びた白色で真珠光沢が強いのが特徴です。後筋痕は丸く、大きいです。

分布

北海道南部から九州にかけての沿岸に分布し、朝鮮半島や中国北部にも生息しています。南西諸島には分布しないとされていましたが、近年、西表島での漂着報告があります。

生態

外洋に面した潮間帯から水深20m程度の岩礁域に生息しています。足から足糸を出し、岩などに体を固定します。産卵期は主に3月から6月で、成長は早く、2-3年で10cm程度に達します。大型の個体は雌が多く、性転換を行うと考えられています。潮間帯での干出は、必ずしも生存に必須ではないとの研究結果もあります。

ムラサキイガイとの違い

イガイとムラサキイガイは見た目が似ていますが、イガイはより大型で殻が厚く、殻頂が鷲鼻状に曲がっている点が異なります。また、イガイは殻表面に青みがなく、外洋に面した場所に生息する傾向があります。一方、ムラサキイガイは内湾に多く見られます。

毒性

イガイは、麻痺性貝毒を持つことがあります。これは、毒を持つ藻類を摂取したことによるもので、特に内臓に毒が蓄積されやすいです。赤潮が発生すると毒化する可能性が高まります。筋肉部分には毒はほとんど見られません。

名称

日本語の「イガイ」は中国語の「貽貝」からきており、他にも多くの地方名が存在します。これらの名称は、貝の見た目、生息地、形状、歴史、文化など、様々な要因に基づいてつけられています。

地方名の例

シウリ、シュリガイ：植物のシウリに由来
カラスガイ、クロガイ：貝殻が黒いことに由来
ソックリガイ、ニタリガイ：軟体部が女性器に似ることに由来
セトガイ、センダイガイ：獲れる地名に由来
サンバシガイ、ハシバシラ：付着する場所から

食用としての利用

イガイは、日本では古くから食用とされ、貝塚からも出土例があります。現在でも、分布域沿岸で漁獲され、春には特に美味しくなります。新鮮なものは、刺身や酢の物、煮物、焼き物、揚げ物、シチューなど、様々な調理法で楽しめます。特に、素焼きのほうろくで蒸し焼きにした「ほうろく蒸し」は美味とされています。鳥取県では、炊き込みご飯（いがい飯）としても利用されています。

養殖の可能性

イガイの養殖も研究されており、3歳で100g以上になる個体もいます。成長が比較的早く、単価も期待できるため、震災からの復興のための新規養殖品目としても注目されています。

中国での利用

中国でもイガイは食用とされ、「海紅」や「東海夫人」などの名で呼ばれます。乾燥したものは「淡菜」と呼ばれ、生薬としても利用されます。

その他

清少納言にまつわる伝説も存在し、イガイにまつわる歴史と文化的な側面も持ち合わせています。

参考文献

『改訂新版 世界文化生物大図鑑 貝類』世界文化社
『日本近海産貝類図鑑』（第二版）東海大学出版部
農林水産省「うちの郷土料理」
『日本大百科全書』小学館
『中国食物事典』柴田書店
『魚Ⅰ』真珠書院
『食品大事典』真珠書院
宮城県水産研究開発センター研究報告

関連項目

イガイ接着タンパク質

この文章は、イガイの多様な側面について包括的に解説したものです。イガイの生物学的特徴、分布、生態、利用法、文化的な背景など、多岐にわたる情報を網羅しています。読者の皆様がイガイに関する知識を深めるための一助となれば幸いです。

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