イガイ科

イガイ科（Mytilidae）は、二枚貝綱翼形亜綱に属する、現生では唯一の科です。この科は、貧歯類というグループに分類され、その名の通り、蝶番部分の鉸歯がほとんど、あるいは全くないという特徴を持っています。

特徴

イガイ科の貝殻は、一般的に殻頂が前側に偏った三角形をしています。内側は真珠光沢を放ち、外側は青黒色や茶色、黄色など、多様な色合いを示すことがあります。貝の身は外套膜に覆われ、二つの貝柱で支えられています。筋肉の色は生息地のプランクトンの影響を受け、変化します。特徴的なのは、筋肉質の足を使って移動できる点で、ビソジェン腺から分泌される足糸を使って岩などにしっかりと固定することができます。

エラは2つあり、1時間に約3リットルの海水を循環させ、プランクトンを摂取しています。取り込んだプランクトンは、吻針で咀嚼され、加水分解されて消化されます。

イガイ科の生物は雌雄異体で、晩春から初秋にかけて年に数回産卵を行います。一度の産卵で約100万個の卵を放出しますが、成貝になれるのはごくわずかです。

分類

イガイ科は、いくつかの亜科に分類されます。

ヒバリガイ亜科 (Modiolinae): ヒバリガイなどが含まれます。
イシマテ亜科 (Lithophaginae): イシマテなどが属します。
キザミガイ亜科 (Crenellinae): キザミガイやホトトギスガイなどが含まれます。
イガイ亜科 (Mytilinae): イガイ、カワヒバリガイ、ムラサキイガイなどが代表的です。

さらに、多数の属と種が確認されています。以下に代表的な属をいくつか挙げます。

Adipicola：スエヒロマユイガイ、ヒラノマクラなど
Adula：マユイガイなど
Amygdalum：ヌリツヤホトトギス、マボロシガイなど
Arcuatula：ホトトギスガイなど
Bathymodiolus：シンカイヒバリガイなど
Brachidontes：スキゲヒバリガイ、ヒバリガイモドキなど
Crenella：チゴキザミガイなど
Dacrydium：キタノヒバリガイ、ミジンヒバリガイなど
Gigantidas：オオマユイガイなど
Leiosolenus：イシマテ、カクレイシマテなど
Limnoperna：カワヒバリガイなど
Lithophaga：イスカノハシガイ、シギノハシガイなど
Modiolus：ヒバリガイ、コケガラスなど
Musculus：タマエガイなど
Mytilus：イガイ、ムラサキイガイなど
Perna：ミドリイガイなど
Septifer：クジャクガイ、ムラサキインコガイなど

食材としての利用

イガイ科の貝は、世界中で食用として利用されています。

欧米

ヨーロッパでは、ペスカトーレ、パエリア、ブイヤベース、ワイン蒸しなど、様々な料理に使われます。特にフランス料理、イタリア料理、スペイン料理などの南ヨーロッパで多用され、ベルギーのムール貝料理は有名です。トルコでは、ムール貝の詰め物料理であるミディエ・ドルマスがメゼとして提供されます。

日本

日本では、伝統的にイガイが利用されており、ムラサキイガイも同様に利用されることがあります。野生のムラサキイガイは各地の磯や防波堤でよく見られますが、小型で食用に適さない場合や、貝毒の危険性があるため注意が必要です。

また、同じイガイ科のムラサキインコガイは、非常に美味しい出汁が出る貝として知られ、地域によっては食用として販売されています。

その他、釣り餌としても利用されています。広島県廿日市市では、天然のムール貝を養殖し、大型化して出荷する試みも行われています。

ムール貝について

フランス語の「ムール (moule)」は、イガイ科全般を指す言葉です。英語の「マッスル (mussel)」は、イガイ科だけでなくイシガイ目、カワホトトギス科も含む名称です。

現在、フランス産のムール貝は養殖ものが多く、伝統的な養殖方法には3種類があります。

平地式・平面式: 遠浅で海流が穏やかな海底に直接ムール貝を撒く方法。ブルターニュ、シェルブール周辺で行われています。
ブショ(bouchots)式: 海底に杭を立て、ロープを渡して貝を付着させる方法。ラ・ロシェルからノワールムティエ島の間、ノルマンディ海岸などで見られます。
懸垂式: 筏からロープを垂らし、幼生を付着させる方法。スペインのリアス式の湾内や地中海沿岸で行われています。

フランス産の天然ムール貝は、養殖物に比べて肉が薄く味が劣るとされ、価値が低下しています。現在では、北アメリカの太平洋沿岸、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランド、インドの沿岸で、ムール貝に似た別の貝が盛んに水揚げ、消費されています。

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