ムラサキイガイ

ムラサキイガイ（紫貽貝）

ムラサキイガイ（学名：Mytilus galloprovincialis）は、イガイ科に属する二枚貝の一種です。別名チレニアイガイとも呼ばれ、ヨーロッパではヨーロッパイガイなどと共にムール貝として食用にされています。日本でも20世紀後半から食材として利用されるようになり、「シュウリ貝」や「ニタリ貝」とも呼ばれることがあります。しかし、「カラス貝」や「ムラサキ貝」と呼ばれることがありますが、これらは別の種類の貝を指すため、注意が必要です。

分布

ムラサキイガイは、元々地中海沿岸が原産ですが、船舶の底に付着したり、バラスト水に混入したりして、世界中に分布を広げました。日本では、1932年に神戸港で初めて発見され、1950年代には全国に広がりました。ヨーロッパ以外では外来種として扱われ、その繁殖力の強さと足糸の強靭さから、一度定着すると人力での駆除が困難になっています。ミドリイガイよりも低温域に生息し、29℃以上の高水温では死滅することが報告されています。

形態

殻はやや偏った水滴型をしており、大型のものでは10cmを超えるものもありますが、通常は5cm前後です。殻はあまり膨らまず、左右に平たい形状をしています。外側は光沢のある黒褐色から黒青色をしており、内側は青白色で、部分的に真珠光沢があります。「ムラサキ」という名前ですが、殻皮が剥がれると紺色に近い色合いになります。殻の前端と殻頂がほぼ同じ場所にあり、反対側の丸く広がった部分が後端です。殻はアサリなどに比べると薄く、弾力性があります。殻の表面は滑らかで、フジツボやゴカイ類が付着していることもあります。

足糸を使い、岩などに体を固定しますが、若い個体は足糸を付け直しながら移動することもあります。足は細長い指状で、伸縮や屈曲が自由にできます。足の根元から先端にかけて溝があり、その溝に沿ってタンパク質が分泌され、足糸が形成されます。この足糸は非常に強靭で、接着力も強く、水中接着剤の開発研究にも利用されています。

生態

内湾や港などの穏やかな場所を好み、岩礁や人工物に集団で付着しています。繁殖期は冬季で、カキよりも幼生の浮遊期間が長いです。集団で付着した岩礁や防波堤などは真っ黒に見えるほどです。食性は濾過摂食で、海中のデトリタスやプランクトンを摂取します。入水管は簡素で短く、あまり殻から出ていません。糞や未消化物は粘液でまとめられ体外に排出されるため、水を浄化する効果もあります。天敵はクロダイやベラ、フグなどの肉食魚や、イボニシなどの肉食巻貝です。

環境への影響

在来の付着生物であるフジツボやカキと生息域を競合します。また、北海道に自然分布するキタノムラサキイガイとの交雑による遺伝的攪乱も起こしています。一方で、海水の浄化能力は高く評価されていますが、増殖後の死亡個体による水質汚染も問題となります。ムラサキイガイの赤潮生物摂食を利用した水質浄化の試みも行われており、洞海湾では、植物プランクトンを摂食させ、成長したムラサキイガイを資源として利用する取り組みも行われています。

経済活動に対しては、養殖筏や発電所の取水設備に付着し、被害を与えることがあります。

食材

日本ではあまり和食に利用されていませんが、瀬戸内海などで漁獲されるイガイと同様に炊き込みご飯などに利用されることがあります。旬は春から夏にかけてです。クロダイやイシダイの釣り餌としても利用されます。

洋食では、フランス料理やベルギー料理の白ワイン蒸し（ムール・フリット）、スペイン料理のパエリア、イタリア料理のスパゲッティ・アイ・フルッティ・ディ・マーレなど、様々な料理に利用されています。生貝や缶詰などの加工食品としても流通しています。

近縁のムラサキインコも食用として知られており、非常に美味しい出汁が出ることで有名です。

食中毒

ムラサキイガイは記憶喪失性貝毒、麻痺性貝毒、下痢性貝毒など、様々な貝毒を蓄積することが報告されています。二枚貝の中でも貝毒の減毒が遅く、長期間にわたって毒性を保持しやすいため、食中毒を起こしやすいです。市場に出回るものは検査体制が整っているため安全ですが、天然のものを採取して食べる場合は注意が必要です。2013年には大阪湾で食中毒事件が発生しています。

参考文献

波部忠重・奥谷喬司『学研中高生図鑑 貝II』1975年
小林安雅『ヤマケイポケットガイド16 海辺の生き物』山と渓谷社 2000年 ISBN 4635062260
奥谷喬司編著『日本近海産貝類図鑑』（イガイ科解説 : 黒住耐二）東海大学出版会 2000年 ISBN 9784486014065
奥谷喬司・楚山勇『新装版 山渓フィールドブックス 海辺の生きもの』山と渓谷社 2006年 ISBN 4635060608
三浦知之『干潟の生きもの図鑑』南方新社 2007年 ISBN 9784861241390
ムラサキイガイ 国立環境研究所 侵入生物DB

外部リンク

* ムラサキイガイに関する海洋環境研究 - 日本財団図書館

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