イギリスの司法

イギリスの司法制度：複雑な歴史と多様な構造

イギリスの司法制度は、単一の司法府ではなく、イングランド・ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの各地域に独自の議会と司法制度を持つ、多層的な構造を特徴としています。それぞれの地域には独自の法体系（イングランド法、ウェールズ法、北アイルランド法、スコットランド法）が存在する一方、これらの法体系を包括する「英国法」という概念も用いられています。この複雑さは、イギリスの歴史的経緯と、各地域の独自の法的伝統を反映したものです。

全土を管轄する裁判所

イギリス全土を管轄する裁判所としては、連合王国最高裁判所が最も重要な役割を果たします。その他にも、特別移民上訴委員会、雇用審判所、雇用上訴審判所など、特定の分野を専門とする裁判所が存在し、全国的な司法権を行使しています。

連合王国最高裁判所

2009年に設立された連合王国最高裁判所は、以前は貴族院が担っていた司法機能を引き継ぎました。最高裁判所は、イングランド・ウェールズ、北アイルランドでは終審裁判所としての役割を果たしますが、スコットランドについては民事事件のみに限定されます。スコットランドの刑事事件の終審裁判所は、スコットランド高等裁判所です。興味深い事例として、英国裁判所の管轄外である香港の最高裁判事として、英国最高裁の判事が裁判に関わったケースもあります。

最高裁判所は、最高裁判所長官、副長官、そして10名の判事の計12名で構成されています。判事の任命は、独立した選出委員会による厳格な選考プロセスを経て行われます。判事の定年は75歳です。

イギリスの審判所

主席審判所所長が率いるイギリスの審判所は、行政的紛争や専門的な問題を扱う機関です。

選挙裁判所

選挙裁判所は、議員選挙に関する訴えを扱う裁判所です。地方選挙と国政選挙によって手続きが異なり、訴えが提起された際に臨時で設置され、裁判終了後に解散するという特徴があります。

イングランドとウェールズの司法制度

イングランドとウェールズには、貴族院、控訴院、高等法院、刑事法院、県裁判所、治安判事裁判所の6種類の裁判所階層が存在します。さらに、検屍官裁判所、軍事裁判所、公正取引裁判所、教会裁判所など、専門性の高い特殊な裁判所もあります。

イギリスの刑事司法

イングランドとウェールズの刑事司法は、警察、検察庁、裁判所の連携によって機能します。警察は捜査を行い、検察庁（Crown Prosecution Service）は起訴を行います。1985年に設立された検察庁は、警察から事件を引き継ぎ、治安判事裁判所などで公判を行います。また、複雑な経済犯罪を扱う重大犯罪捜査庁も存在します。

弁護士制度

イギリスの弁護士は、法廷弁護士（バリスタ）と事務弁護士（ソリスタ）に大別されます。法廷弁護士は、法廷での訴訟活動を行う資格を持ち、4つのインズ・オブ・コート（弁護士養成機関）のいずれかに所属しています。

まとめ

イギリスの司法制度は、歴史的経緯や各地域の法的伝統を反映した複雑な構造を持っています。連合王国最高裁判所を中心とした全国的な司法機関と、各地域の独自の司法制度が共存するこのシステムは、その歴史と多様性を象徴するものです。それぞれの裁判所や機関の役割、弁護士制度、刑事司法プロセスの理解は、イギリスの社会や政治を理解する上で不可欠です。将来、司法制度改革がどのように進展していくのか、注目に値します。

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