刑事法院

イングランド・ウェールズにおける刑事司法の中核：刑事法院

イングランドとウェールズで刑事事件を裁く裁判所として、刑事法院は重要な役割を担っています。高等法院、控訴院と共にイングランド・ウェールズ高等裁判所を構成する一方、刑事事件においては上位の第一審裁判所として機能します。しかし、階層的には高等法院とその合議法廷よりも低い位置付けにあります。

裁判官と組織

刑事法院の裁判官は、高等法院裁判官、巡回裁判官、市裁判官の3種類がいます。

高等法院裁判官: 20名以上が在籍し、最も重大な事件（殺人、強姦など）を担当します。刑事事件の豊富な経験を持つ王座部出身の裁判官が多いのが特徴です。
巡回裁判官: 約600名がおり、刑事法院での業務に多くの時間を割いています。刑事法院のトライアルの80%以上を処理する主力です。大法官の推薦を経て国王が任命し、他の職務との兼務は認められていません。民事事件も担当することがあります。
市裁判官: 開業弁護士がパートタイムで務める裁判官で、約1400名がいます。トライアルの約15%を担当します。高等法院裁判官と同様、大法官の推薦を経て国王が任命され、弁護士経験10年以上が求められます。

事件の割り当ては、イングランド・ウェールズ首席判事が定めた指針に基づいて行われます。最も重大な事件は高等法院裁判官、その他の事件は巡回裁判官または市裁判官が担当します。高等法院裁判官やオールド・ベイリーで勤務する裁判官は「マイ・ロード」「マイ・レディ」と呼ばれ、それ以外の裁判官は「ユア・アナー」と呼ばれます。

地理的には、イングランド・ウェールズ77ヶ所に設置され、7つの地区に分けられています。ロンドンの主要な刑事裁判所である中央刑事裁判所（オールド・ベイリー）も刑事法院の一部です。どの法廷で事件を扱っても管轄上の問題は発生しません。設置場所によって、高等法院裁判官の配置状況は異なり、民事事件も扱う場所、刑事事件のみ扱う場所などがあります。

刑事法院の職務

刑事法院は大きく分けて以下の4種類の職務を担っています。

1. 正式起訴に基づくトライアル: これは刑事法院の専属管轄事項であり、治安判事裁判所では行えません。重大な犯罪は必ず刑事法院で審理されます。選択的起訴犯罪については、治安判事裁判所の判断や被告人の希望によって刑事法院に送致されます。
2. 治安判事裁判所からの量刑送致: 治安判事裁判所で有罪判決を受けた被告人に対し、より重い刑罰が必要と判断された場合、量刑を刑事法院に委ねます。これは、犯罪の重大性や社会への危険性などを考慮して判断されます。
3. 治安判事裁判所からの上訴: 治安判事裁判所の判決に不服がある被告人は、刑事法院に上訴できます。刑事法院は、原判決を維持、破棄、または変更する権限を持ちます。
4. その他: 少年裁判所の保護命令に対する上訴など、民事雑事件も扱います。

刑事法院のトライアルは原則として陪審によって行われ、2003～2004年度には8万3247件の事件を処理しました。しかし、事件の処理には長い待ち時間が発生しており、これは近年悪化傾向にあります。

歴史と施設

1971年裁判所法により、1972年に巡回裁判所と四季裁判所に代わって設立されました。巡回裁判所は巡回制で、四季裁判所は地域的な裁判所でした。刑事法院はこれらに代わり、恒久的・統一的な裁判所としてイングランド・ウェールズ全域をカバーするようになりました。刑事法院と州裁判所は同じ建物にあることも多く、設備の共有も進んでいます。

法廷の様子

法廷には、裁判官席、書記官、廷吏、音声記録係、速記係（またはテープ記録係）、法廷弁護士、事務弁護士、被告人席（ドック）、傍聴席、陪審員席、証人席などがあります。裁判官の階級は法服の色で区別され、呼びかけ方も階級によって異なります。法廷の手続きは厳格なルールに従って行われ、陪審員は事件の審理を傍聴し、評決を下します。評決中は外部との接触は制限され、廷吏を通してのみ裁判官と連絡を取ることができます。

参考文献

Sprack, John (2008). A Practical Approach to Criminal Procedure (12th ed. ed.). U.S.A.: Oxford University Press. ISBN 0199535396
Crime and Disorder Act 1998 (c. 37)
Magistrates' Courts Act 1980 (c. 43)
Powers of Criminal Courts (Sentencing) Act 2000 (c. 6)
Supreme Court Act 1981 (c. 54)
* Crown Court(PDF) - Criminal Justice System による刑事法院の手続解説。

もう一度検索