イサイ・ドブローウェン

イサイ・ドブローウェン：20世紀の音楽世界に輝きを放った巨匠

イサイ・ドブローウェン（1891年2月27日-1953年12月9日）は、20世紀を代表するロシア出身の指揮者にして作曲家です。彼の名は、ロシア・オペラの国際的な普及に大きく貢献した指揮者として、そして、繊細で美しい旋律を特徴とする作曲家として、音楽史に刻まれています。

ロシアのニジニ・ノヴゴロドに、イツハク・ゾラホヴィチ・バラベイチクとして生まれたドブローウェンは、地元の音楽院で音楽の基礎を学びました。その後、モスクワ音楽院でセルゲイ・タネーエフに師事し、作曲技法を研鑽。さらにウィーンに留学してレオポルド・ゴドフスキーにピアノを師事するなど、多様な音楽的刺激を受けて才能を開花させていきました。

1919年には、ボリショイ劇場の指揮者を務めるようになり、ロシア音楽界の中枢で活躍を始めます。しかし、1922年にソ連を離れ、ヨーロッパへと渡ります。ドレスデンにおけるゼンパー・オーパーでの《ボリス・ゴドゥノフ》のドイツ初演指揮は、彼の国際的なキャリアにおける大きな転換点となりました。この公演は大成功を収め、一躍注目を集める存在となりました。

その後、ドブローウェンは1927年にオスロ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任。1930年から1934年までは、ベイジル・キャメロンと共にサンフランシスコ交響楽団の首席指揮者を務めるなど、欧米各地で活躍の場を広げていきました。1941年からは、エーテボリ交響楽団の首席指揮者を務め、同時にミラノ・スカラ座にも定期的に客演するなど、精力的に活動を続けました。特に、ロシア・オペラの紹介には熱心に取り組み、その普及に大きな役割を果たしました。

彼の指揮者としてのキャリアは、1952年12月、オスロ・フィルハーモニー管弦楽団を指揮した北欧での最後の公演まで、実に30年以上に及びます。生涯最後の公演は、1953年1月19日、シュトゥットガルト管弦楽団との公演でした。そして同年12月、オスロにてこの世を去りました。

ドブローウェンの作曲家としての顔も忘れてはなりません。彼は、セルゲイ・ラフマニノフを彷彿とさせる、美しく叙情的なピアノ曲を数多く残しました。小品からピアノ・ソナタ、ヴァイオリン・ソナタまで、その作品は近年再評価の機運が高まっており、今後さらに注目を集めることが期待されています。特に、《ピアノ協奏曲 嬰ハ短調》作品20は、深い悲しみを帯びた魅力的な旋律と、色彩感豊かな管弦楽法が特徴で、ラフマニノフやメトネル、スクリャービンといった巨匠たちの影響を感じさせつつも、彼独自の個性を鮮やかに示しています。

ドブローウェンは、ニコライ・メトネルやアルトゥール・シュナーベルといった著名な音楽家たちと共演し、また、ロシアの作家マクシム・ゴーリキーやノルウェーの探検家、政治家フリチョフ・ナンセンとも親交がありました。さらには、レーニンがベートーヴェンの《熱情ソナタ》を愛好していたことから、レーニンの前で同曲を演奏したという逸話も残されています。

イサイ・ドブローウェンは、指揮者、作曲家として類まれな才能を発揮し、20世紀の音楽史に大きな足跡を残した巨匠でした。彼の音楽は、現在も世界中で愛され続け、未来へと受け継がれていくことでしょう。

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