イサベル・ペロン

イサベル・マルティネス・デ・ペロン：アルゼンチン初の女性大統領

イサベル・マルティネス・デ・ペロン（1931年2月4日 - ）は、アルゼンチンの政治家であり、元大統領。本名はマリア・エステラ・マルティネス・カルタス・デ・ペロン。彼女は、フアン・ペロンの3番目の妻として、そして世界初の女性大統領として歴史に名を刻みました。

生い立ちとペロンとの出会い

イサベルは、ラ・リオハ州で6人兄弟の末っ子として生まれました。幼い頃に父親を亡くし、苦しい生活の中で母親に育てられました。18歳で職業ダンサーとなり、各地を巡業。パナマのナイトクラブで働いていた際に、亡命中のフアン・ペロンと出会いました。その後、ダンサーを辞め、ペロンの愛人として世界各地を転々としました。1961年、二人はマドリードで結婚し、スペインで生活を送りました。

政治への関与と大統領就任

スペインでの生活の間、イサベルは夫のメッセンジャーとしてアルゼンチン国内のペロン党と接触し、頻繁に両国を往復しました。ペロン派の復権後、夫婦でアルゼンチンに帰国。1973年5月には、中国や北朝鮮など第三世界の国々を歴訪し、周恩来や金日成と会見し、外交実績を積みました。同年10月、大統領選挙に当選したペロンは、イサベルを副大統領に指名しましたが、帰国からわずか1年で死去。これにより、イサベルは世界初の女性大統領として就任しました。

大統領としての苦難

就任当初、イサベルはエビータ（エバ・ペロン）を意識したスタイルを模倣しましたが、すぐに止め、社会福祉大臣のホセ・ロペス・レガを頼るようになりました。しかし、イサベル政権下のアルゼンチンは、ペロン党自体の分裂、オイルショックによる300%を超えるインフレーション、左翼テロの激化など、多くの問題に直面しました。政治的混乱と経済危機により、イサベル政権は統治能力を失っていきました。

クーデターと逮捕、そして晩年

1976年3月24日、ホルヘ・ラファエル・ビデラ将軍によるクーデターが発生し、イサベル政権は崩壊。イサベル自身も逮捕され、横領罪で5年間収監されました。釈放後、スペインに帰国し、ボディガードに囲まれながら静かな余生を送っていました。しかし、2007年1月11日、クーデターの1ヶ月前に発生した活動家エクトル・ファガッティの失踪に関与した容疑で、アルゼンチン連邦当局から国際逮捕状が発行され、スペインで逮捕されました。その後、アルゼンチンへの引き渡しの可否をめぐる審理が行われ、2008年4月に裁判所は引渡しを拒否しました。

イサベル・マルティネス・デ・ペロンは、アルゼンチン政治史において、複雑な遺産を残した人物として記憶されています。世界初の女性大統領という栄誉に輝いた一方で、政治的混乱と経済危機の中で政権を失い、晩年は逮捕と裁判に翻弄されるという、波乱に満ちた人生を送りました。

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