イザベル・サルリ

イザベル・サルリ

アルゼンチン出身の女優、モデル。本名イルダ・イサベル・サルリ・ゴリンド・ティト。アルゼンチンでの発音は「イサベル」に近いが、日本では広く「イザベル・サルリ」の名称で知られている。豊満な肉体と大胆な演技で一世を風靡し、グラマラスなセックスシンボルとして、またラテンアメリカの映画史上特異な存在感を放つカルト女優として記憶されている。

生い立ちとキャリアの始まり

イザベル・サルリは1929年7月9日、アルゼンチンのエントレ・リオス州コンコルディアに生まれた。その美貌とスタイルは若くして注目を集め、1955年には「ミス・アルゼンチン」の栄冠に輝いた。国内を代表する美女となった彼女は、同年のミス・ユニバース世界大会にアルゼンチン代表として出場し、国際的な注目を浴びた。この経験が、彼女を映画界へと導く直接的なきっかけとなった。

アルマンド・ボーとの出会いと映画活動

サルリのキャリアは、俳優であり後に映画監督としても活躍したアルマンド・ボーとの出会いによって決定的なものとなる。ボーは彼女の圧倒的な魅力をすぐさま見抜き、自身の監督作品への抜擢を決意した。1956年、サルリはアルマンド・ボー自身も出演・監督した映画『女体蟻地獄』（原題：El trueno entre las hojas）で女優としてデビューを飾った。この作品は当時としては非常に挑戦的なエロティック描写を含んでおり、大きな波紋を呼んだ。以降、彼女はアルマンド・ボー監督作品におけるミューズとして、約四半世紀にわたり精力的に活動を展開する。ボーとの公私にわたるパートナーシップ（後に結婚したとされる）は、サルリの芸術活動の基盤となった。

作品世界とその評価

イザベル・サルリが出演したアルマンド・ボー監督作品群は、その独特なスタイルで知られる。露骨な官能性、シュールなキャンプ感、キッチュな美学、そして時にグロテスクとも評される表現が渾然一体となった世界観は、発表当時は検閲や論争を引き起こすことも少なくなかった。しかし、この唯一無二のスタイルは時を経て再評価が進み、特にラテンアメリカ諸国においてはカルト映画としての確固たる地位を築いた。サルリのグラマラスな肉体は、単なる性的対象を超え、ある種の力強さや自由の象徴として、ポップ・アイコンやゲイ・アイコンとしても崇拝される対象となった。彼女の作品は、メロドラマ、エロティシズム、コメディ、ホラーといった多様なジャンルを横断しながらも、常にサルリ自身の圧倒的な存在感を中心に展開した。

活動の終焉、そしてカムバック

イザベル・サルリは、1980年に公開されたアルマンド・ボー監督作『Una viuda descocada』への出演を最後に、一度映画界から離れる。翌1981年10月8日、長年の公私のパートナーであったアルマンド・ボーが死去。皮肉にも『Una viuda descocada』が彼の遺作となった。ボーの死後、サルリは沈黙を守っていたが、1996年にホルヘ・ポラコ監督の作品で16年ぶりに女優としてスクリーンに復帰した。その後も数本の作品に出演し、2008年にはアルゼンチン映画批評家協会より功労賞を授与され、長年の貢献が称えられた。彼女は2019年6月25日、90歳を前にして波乱に満ちた生涯を終えた。

イザベル・サルリは、そのグラマラスな容姿と大胆な演技、そしてアルマンド・ボーと共に創造したユニークな映画世界によって、アルゼンチン映画史、さらにはラテンアメリカの文化史において忘れられないアイコンとしてその名を刻んでいる。彼女の作品は、今なお多くの人々に発見され、研究され、語り継がれている。

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