イシマキガイ

イシマキガイ（Clithon retropictus）

イシマキガイ、または石巻貝と呼ばれるこの巻貝は、アマオブネガイ科に属し、主に西太平洋沿岸の汽水および淡水域に生息しています。特に日本の本州中部から南の地域で一般的に見られ、雌雄異体の生物ですが、両側回遊型の生活を送りながら生活しています。

外観の特徴

この貝は、アマオブネガイ類に共通の半球形を持ち、成貝は最大で約25mmに成長することがあります。その螺塔は最高で4階に達しますが、特に河川水がカルシウムイオンを欠いている場合、殻の頂部が侵食されやすく、結果として老成個体では体層のみ残ることがあります。殻の表面は艶のない緑褐色で、細かな三角形の模様が連なっています。この模様は1辺が太くなっており、同じ科のカノコガイとは明確に区別されます。幼貝の時期には淡い色帯やはっきりした三角模様が見られますが、成長するにつれてこれらの模様は目立たなくなります。

スクッとしたD字形の殻口が特徴で、下部は黄褐色から緑褐色へと変化します。殻口の奥の部分は青白く、蓋は石灰質で淡い黄褐色になっていますが、外縁に赤い角質が見えるのが特徴です。

生態と生活環境

イシマキガイは河川の中流から河口付近に生息し、岩盤やコンクリート護岸などに付着して生活します。水質の影響が特に強い淡水域にも広く分布しており、汽水域だけでなく純淡水域にも見られます。この種は水中で生活することが多く、潮が引いた河口では水が残っている場所に集まる傾向があります。

また、彼らは岩の表面を這いながら、そこに付着している微細藻類や微生物を歯で削り取りながら食べます。淡水域ではカワニナなどと共生しており、時にはゲンジボタルやヘイケボタルの幼虫に捕食されることもあります。

繁殖と生活史

イシマキガイは春から夏にかけて交尾を行い、メスは交尾後に直径1-2mmの卵嚢を岩や他の貝の殻に付着させます。卵嚢には約100個の卵が含まれ、孵化したベリジャー幼生は海に流れ、途中で植物プランクトンを摂取しながら成長します。その後、河川の汽水域に戻り、着底してから幼貝に変わります。成長とともに体色が黒ずみ、模様が目立たなくなりますが、河口を遡上し淡水域まで進出します。

人間との関係

観賞魚水槽では藻類を除去する用途で「コケとり」として利用されていますが、両側回遊の生活史のため、家庭での繁殖は難しいとされています。卵を産むことはありますが、その痕跡が水槽に残ることも。

また、イシマキガイには寄生虫の報告は見られませんが、腸炎ビブリオ（海洋細菌）が寄生しており、河川を遡上することでこの細菌が汽水・淡水域で検出される原因となります。

日本における保全状況

南日本の河川下流域では比較的広く見られますが、河川改修などにより個体数が減少することもあります。日本の環境省のレッドリストには記載されていませんが、九つの府県のレッドリストではそれぞれ絶滅危惧種として位置づけられています。具体的には、千葉県では絶滅危惧I類、徳島県と福岡県で絶滅危惧II類として分類されています。新潟県や福井県など他の府県でも準絶滅危惧に指定されています。これらの情報から、イシマキガイはその生息環境を保護しながら観察することが重要であることが伺えます。

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