イセエビ科

イセエビ科とは

イセエビ科（Palinuridae）は、イセエビ下目に属する甲殻類のグループで、イセエビ、ハコエビ、リョウマエビなどを含む多様な種で構成されています。英語では「spiny lobster（棘のあるロブスター）」と呼ばれ、その名の通り、全身が棘や突起で覆われているのが特徴です。

分布と生息環境

イセエビ科は、全世界の熱帯から亜熱帯にかけて広く分布しており、浅い海から水深数百メートルの深海まで、様々な環境に適応して生息しています。特に、岩礁やサンゴ礁などの複雑な地形を好む傾向があります。

形態的な特徴

イセエビ科の成体は、種によって大きさが大きく異なりますが、一般的に体長10cmを超えるものが多く、中には50cmに達する大型種も存在します。体型は太くて短い円筒形で、頑丈な外骨格に覆われています。特に、第2触角は長く太く、外骨格が発達しており、防御のために重要な役割を果たしています。一方、第1触角は細く短いのが特徴です。

ロブスターなどザリガニ下目の生物と外見が似ていますが、イセエビ科には大きな鋏脚がなく、第2触角が太く硬いという違いがあります。また、淡水性の種は存在せず、幼生期が長いことも特徴の一つです。

生殖と成長

イセエビ科のメスは、受精卵を腹肢に抱えて保護し、孵化するまで大切に育てます。孵化した幼生はフィロソーマ幼生期と呼ばれる独特の幼生期を経て、成体へと成長します。

水産資源としての価値

イセエビ科には大型種が多く、特に多産する種は重要な水産資源として各地で利用されています。また、美しい体色や特徴的な突起を持つ種類は、観賞用や剥製としても人気があります。

イセエビ科の分類

イセエビ科は、現生種として12属60種が確認されており、大きく2つのグループに分けられます。

Silentes（発音器官を持たないグループ）

カッチュウミナミイセエビ属 Sagmariasus：カッチュウミナミイセエビなど1種。
チヒロミナミイセエビ属 Projasus：チヒロミナミイセエビなど2種。
ミナミイセエビ属 Jasus：ミナミイセエビなど5種。ミナミイセエビの仲間は、総称してミナミイセエビと呼ばれます。
オーストラリアミナミイセエビ Jasus novaehollandiae：体長約30cm。イセエビに似ていますが、頭胸甲だけでなく腹部にも突起があり、ゴツゴツしています。オーストラリアとニュージーランド周辺に分布し、日本に輸入されるイセエビの過半数を占めています。
アフリカミナミイセエビ Jasus lalandii：ナミビアや南アフリカに生息し、日本への輸出が多い種です。

Stridentes（触角の付け根に発音器官を持つグループ）

ヨロンエビ属 Palinurellus：ヨロンエビなど2種。
Palibythus：1種
イセエビ属 Panulirus：イセエビなど21種。
ワグエビ属 Palinustus：ワグエビなど5種。
ワグエビ Palinustus waguensis
カリブワグエビ Palinustus truncatus
クボエビ属 Puerulus：クボエビなど9種。
ヨーロッパイセエビ属 Palinurus：ヨーロッパイセエビなど6種。
ヨーロッパイセエビ Palinurus elephas：ノルウェーからモロッコ近海にかけての北東大西洋と地中海に分布しています。
ハコエビ属 Linuparus：ハコエビなど4種。
オキナハコエビ Linuparus sordidus
ハコエビ Linuparus trigonus
Justitia：1種（化石種2種）。
カギテリョウマエビ Justitia longimana：全世界の熱帯域に広く生息。
Nupalirus：3種
リョウマエビ Nupalirus japonicus

イセエビ属(Panulirus)について

イセエビ属はイセエビ科の中で最も種数が多く、重要な種を多く含みます。日本近海からは、イセエビを含む6種が知られています。

イセエビ Panulirus japonicus：体長約30cm。全身が暗赤色で、日本近海のみに分布します。
カノコイセエビ Panulirus longipes：体長約30cm。体に白い斑点があり、第1触角に7本の横しまがあるのが特徴です。西太平洋とインド洋の熱帯域に分布し、南西諸島ではイセエビよりも多く漁獲されます。
シマイセエビ Panulirus penicillatus：体長約30cm。歩脚に白い縦線があり、第1触角にしま模様がないのが特徴です。熱帯インド洋と太平洋諸島に分布し、日本では伊豆諸島以南に生息しています。
ケブカイセエビ Panulirus homarus：体長約30cm。腹部の節に短い毛の生えた溝があり、体色は青灰色がかっており、第1触角に7本の横しま、歩脚は黒と白のまだら模様をしています。西太平洋とインド洋の熱帯部に分布しますが、日本では数が少ないです。
ゴシキエビ Panulirus versicolor：体長約30cm。体色が黒色で、頭胸甲に黄色の模様、腹部の節ごとに黄色の縁取りがあります。観賞用として利用されることが多いです。
ニシキエビ Panulirus ornatus：体長は最大50cmを超えるイセエビ属最大種です。頭胸甲は水色で突起が橙色、腹部は黒の横しまがあり、両脇に黄色の斑点が2つずつあります。観賞用の剥製として珍重されます。
アカイセエビ Panulirus brunneiflagellum：小笠原諸島及び伊豆諸島の一部だけに分布する海老。まれに本州の紀伊半島などで見つかることもあります。
オーストラリアイセエビ Panulirus cygnus：体長約25cm。体色はピンク色が強く、腹部の両脇に白い斑点が並びます。オーストラリア西岸に分布します。
アメリカイセエビ Panulirus argus：体長約30cm。体色が黄褐色で、腹部の節ごとに白い斑点が横に並びます。大西洋西部に分布します。


その他、アメリカミナミイセエビ、カリフォルニアイセエビ、ハワイイセエビなどもいます。

絶滅属

イセエビ科には、以下のような絶滅した属も存在します。

†Archaeocarabus
†Archaeopalinurus
†Astacodes
†Palinurina
†Phalangites
†Rugafarius
†Yunnanopalinura*





この文章は、イセエビ科の多様な世界を理解するための入門として活用できます。

もう一度検索