イタビア航空870便事件

イタビア航空870便事件とは

1980年6月27日、イタリアの国内線として運航されていたイタビア航空870便が、飛行中に突然空中爆発し、シチリア島沖のティレニア海に墜落しました。この事故で、乗員乗客81名全員が犠牲となりました。

事故を起こした機体は、アメリカ製のDC-9-15型機（機体記号：I-TIGI）で、ボローニャからパレルモへ向かう途中でした。現地時間午後9時頃、高度約7620メートルを巡航中、レーダーに未確認飛行物体が870便に接近する様子が記録された直後に、ウスティカ島の北東約25キロメートルの海上に墜落しました。

機体の残骸は水深3700メートルの海底に沈み、捜索隊は38名の遺体を収容しました。また、機体の残骸も回収されましたが、長年にわたり、事故原因をめぐって様々な議論が繰り広げられてきました。

事故原因を巡る様々な説

870便の墜落原因については、パイロットからの異常を知らせる通信がなかったことや、直前に未確認飛行物体がレーダーで確認されたことなどから、単なる航空事故ではない可能性が指摘されてきました。

当初、テロ説として、機内に仕掛けられた時限爆弾が爆発したという説が唱えられました。また、レーダーに映っていた未確認飛行物体が870便に衝突したという説も浮上しました。その後、未確認飛行物体は、リビア軍の戦闘機を追跡していた空対空ミサイルであるとする説が有力となり、イタリア空軍などが関与した可能性も指摘されました。この説は、イタリア国内の裁判でも公式に取り上げられました。

機体の残骸の解析の結果、機内で爆発が起きた痕跡が確認されました。しかし、その原因については、テロによる爆弾なのか、ミサイルによる誤射なのか、意見が分かれました。

空対空ミサイル説の詳細

空対空ミサイル説では、ミサイルを発射した当事者として、イタリア空軍機、リビア軍機、またはNATO軍機が挙げられました。

有力な説の一つは、イタリア空軍機が領空侵犯したリビア軍機に対してミサイルを発射したものの、誤って870便を撃墜してしまったというものです。また、リビア軍機が、亡命を企てた別のリビア軍機を攻撃しようとしたミサイルが、870便に誤って命中したという説もあります。

ミサイルの命中箇所についても議論があり、870便の右側機首に命中し、機内で爆発が起きたとする説が有力です。爆風により、乗客が座席ごと機外に吹き飛ばされたと推測されています。赤外線誘導式のミサイルであれば、機体後部のエンジンを狙うはずであるため、870便に命中したのは、セミ・アクティブレーダー誘導ミサイルであると考えられています。

また、領空侵犯したとされるリビア軍機は、事件から約1ヶ月後の7月18日に、イタリアのカラブリアで墜落しているのが確認されています。その目的については、亡命説や、当時欧州を訪問していたアメリカ大統領専用機エアフォースワンを撃墜しようとした説など、様々な憶測が飛び交っています。

NATO軍機による誤射説もありましたが、NATO及びイタリア軍は、事件当日に演習は行われていなかったと否定しています。

テロ説の詳細

テロ説では、事件と同じ1980年8月に発生したボローニャ駅爆破テロ事件との関連性が指摘されています。爆弾は機体後部のトイレに仕掛けられ、爆発により機体後部上部とエンジンが吹き飛ばされたと推測されています。

事件のその後

墜落原因については、様々な推論が飛び交いましたが、決定的な結論は出ていません。イタリア空軍の幹部が誤射の疑いで起訴されましたが、1997年に事故調査委員会は、原因不明の機内爆発があったと結論付けました。2007年には空軍幹部の無罪が確定しました。

しかし、イタリアの裁判所は事故調査委員会の報告書を軽視し、2013年1月28日に、空対空ミサイルが870便を撃墜した可能性が高いとの判断を下しました。現在でも、この事件には何らかの陰謀があるとする陰謀説が根強く存在します。

2007年には、犠牲者81人を追悼するモニュメントとともに、870便のモックアップが復元・展示されました。イタリアの作曲家アレッサンドロ・メルキオーレは、この事件を題材にしたオペラを上演しています。

メーデー!:航空機事故の真実と真相での扱い

ドキュメンタリー番組「メーデー!:航空機事故の真実と真相」では、この事件を取り上げた際、事故調査委員会の結論に従い、機内爆発物を原因としており、ミサイル説は採用していません。

参考文献

デビッド・ゲロー「航空事故」（増改訂版）イカロス出版 1997年
西村直紀「空中大災難」ワールドフォトプレス 2005年

外部リンク

Official Site of the Association of the Relatives of the Victims of the Accident
AirDisaster.Com Accident Synopsis of Flight 870
Accident details at planecrashinfo.com
Il Muro di gomma - IMDb（英語）, film about the accident
The mystery of flight 870 - Guardian.
'Accident to Itavia DC-9 near Ustica, 27 June 1980: wreckage and impact information & analysis' ISASI forum Vol. 28, No.1, March 1995

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