イタリア風序曲

イタリア風序曲（イタリアしきじょきょく）

イタリア風序曲、あるいはイタリア式序曲とは、およそ17世紀後半から18世紀初頭にかけて、主にイタリアにおいて作曲され、用いられた管弦楽による楽曲形式を指します。この形式の音楽は、当時の重要な大規模音楽作品、特に歌劇（オペラ）やオラトリオなどの開始部分を飾るために演奏されました。

その最も典型的な構造は、比較的小規模ながらも明確に区別される三つの楽章が、休みなく連続して演奏される点にあります。これらの楽章は、速度設定において特徴的な順序をとります。すなわち、第一楽章は速いテンポ（急）、続く第二楽章は遅いテンポ（緩）、そして最後の第三楽章は再び速いテンポ（急）で演奏されるという「急-緩-急」のパターンが一般的でした。ただし、作品によっては細部に variations が見られることもあります。

同時代のフランスで発展したフランス風序曲が、「緩-急」という異なる楽章構成や、付点リズムを多用するといった音楽的特徴によって区別されるのに対し、イタリア風序曲はこの「急-緩-急」のテンポ推移を主要な識別点とします。

この形式は、アレッサンドロ・スカルラッティをはじめとする多くのイタリア人作曲家によって盛んに作曲され、非常に人気を博しました。特に18世紀初頭においては、「シンフォニア」という名称で呼ばれるのが一般的でした。シンフォニアは、もともと「響き」を意味する言葉でしたが、この時期には大規模楽曲の序奏や間奏に用いられる管弦楽曲を指すようになりました。

後に、独立した器楽曲として発展した交響曲（シンフォニー）もまた「シンフォニア」と呼ばれることがあったため、これら初期の歌劇などのための序曲と混同を避ける目的から、あらためてその発祥地と特徴的な形式にちなんで「イタリア風序曲」という呼び方が用いられるようになりました。

しかし、このイタリア風序曲が音楽史において持つ最も重要な意義は、その形式構造が後の時代、具体的には18世紀中葉における古典派時代の交響曲の発展に、直接的な基礎を与えたという点にあります。急-緩-急という三楽章構成、そして各楽章における主題の展開や形式の萌芽は、独立した器楽曲としての交響曲が確立されていく上で、極めて重要な出発点となったのです。古典派交響曲の多くが三楽章または四楽章構成をとる中で、その初期の姿にはイタリア風序曲の影響が色濃く反映されています。

関連する音楽形式としては、序曲全般や、異なる楽章からなる器楽組曲であるディヴェルティメントなどが挙げられます。また、後の時代の例として、青年期のシューベルトがロッシーニのオペラ序曲を模範として作曲した作品に「イタリア風序曲」という名称が付けられている例もあります。

このように、イタリア風序曲は単なるオペラの導入音楽に留まらず、古典派器楽音楽、特に交響曲の歴史を語る上で欠かせない、重要な橋渡しとなる音楽形式であったと言えるでしょう。

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