イチジク製薬

イチジク製薬株式会社

東京都墨田区に本社を置くイチジク製薬株式会社は、1925年の創業以来、一貫して浣腸薬の製造・販売を手がける製薬会社です。その代表的な製品である「イチジク浣腸」は広く知られていますが、その主成分は排泄を促す作用を持つグリセリンであり、製品名に反してイチジクの成分は含まれていません。

沿革

同社の歴史は、1925年（大正14年）に医師の田村廿三郎氏が「イチジク印軽便浣腸」の製造を始めたことに端を発します。翌1926年（大正15年）には合資会社として「東京軽便浣腸製造所」を設立し、田村氏が初代社長に就任しました。1934年（昭和9年）には組織変更により株式会社化を果たします。

この時期、同社は北海道で特殊な白土を生産していた湯浅巌氏と協力関係を築き、「イチジクしもやけ温湯素」や「イチジク美身温湯素」、「イチジクぢの薬」といった製品を製造するなど、事業領域の拡大を試みました。その結果、1939年（昭和14年）には湯浅氏が社長に就任しています。

第二次世界大戦中の1945年（昭和20年）、同社は戦火によって工場を失うという困難に直面しました。しかし、現在の本社所在地に新たな工場を建設し、主力製品である浣腸薬一つに絞って事業を継続することを決断しました。その後、2005年（平成17年）には化成品メーカーであるオカモト株式会社と資本提携を結び、同社の完全子会社となりました。

近年では、ブランドイメージの刷新にも力を入れています。2011年（平成23年）7月には、創業以来使用されてきたコーポレートロゴマークと社名ロゴタイプを変更しました。さらに、「イチジク浣腸楽おし」を除く全ての製品の外観デザインと「イチジク浣腸」のロゴデザインも一新しています。2017年（平成29年）8月からは、「かんちゃん」というマスコットキャラクターを親善大使として起用し、プロモーション活動を展開しています。

主な製品

同社は、様々なニーズに応えるため、数種類の浣腸薬を製造しています。いずれも医薬品として販売されています。

イチジク浣腸（第2類医薬品）
浣腸液の容量によって4つのタイプが用意されています。10gタイプは0歳から5歳、20gタイプは6歳から11歳向け、30gおよび40gタイプは12歳以上の使用を想定しています。
イチジク浣腸 Eシリーズ（第2類医薬品）
12歳以上向けの30gと40gの2タイプがあります。根本部分にジャバラ状のロングノズルを採用しているのが特徴で、ノズルに角度をつけることができるため、特に在宅介護の場面での利用に配慮した設計となっています。容器は押しやすいソフトタイプです。
イチジク浣腸ジャバラ（第2類医薬品）
2013年（平成25年）9月に発売された製品で、12歳以上向けの30gタイプです。微かな力でも押しつぶしやすいジャバラ式の容器を採用しており、最後まで液が残りにくい工夫がされています。容器自体が自立するスタンドタイプであることも利便性を高めています。
リセッチ（第2類医薬品）
2012年（平成24年）3月に発売され、「飲まない、便秘のお薬」というキャッチコピーで女性層を意識したパッケージデザインが特徴でしたが、2020年（令和2年）に終売となりました。

広報活動

同社は様々な媒体で製品の広告を行ってきました。ラジオでは、現在「森本毅郎・スタンバイ!」（TBSラジオ）の交通情報コーナー（火曜・木曜）を提供しているほか、過去には「仁鶴・たか子の夫婦往来」（毎日放送）などの番組スポンサーを務めたことがあります。

テレビCMも印象的なものが多く制作されています。1980年代末には、子供が鞠つきをする映像に、社名をもじった「いちじくにんじんさんしょにしいたけ…」という数え歌をBGMにしたCMが放映されました。その一つ前のCMでは、円空作の仏像が登場し、画面下に製品の効能が流れるというユニークな演出が用いられています。また、1975年（昭和50年）には、ミュージシャン山下達郎氏がCM音楽を手がけたことでも知られています。

新聞広告においても、強いメッセージを打ち出したことがあります。「イチジク浣腸と書かれていないものは、イチジク浣腸ではありません。」と念を押すようなコピーを掲載し、製品の信頼性と独自性を強調しました。

大相撲とのエピソード

同社は意外な形で大相撲界とも関わりを持っています。2015年（平成27年）5月場所からは、大関（当時）の照ノ富士春雄関の全ての取組に対して「指定懸賞」を懸けています。この背景には、同年3月場所での照ノ富士関のエピソードがあります。彼は場所中に下痢を起こし、トイレに行けなかったことで力が入らずに敗れてしまったと報じられました。同社では以前から特定の力士への懸賞を検討していましたが、この新聞記事を読んだ社員が「おなかつながり」であることに注目し、照ノ富士関への懸賞を決めたといいます。同社が指定懸賞を始めた2015年5月場所で、照ノ富士関は13勝2敗という好成績を収めて自身初の幕内最高優勝を果たし、場所後に大関へ昇進するという結果につながりました。

イチジク製薬は、浣腸薬という特定の分野に特化しつつも、時代の変化に合わせて製品ラインナップやブランドイメージを刷新し、多様な広報活動やユニークなエピソードを通じて社会との接点を持ち続けています。

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