イド語

イド語（Ido）は、エスペラントの改良を目指して1908年に発表された人工言語です。その名称は、エスペラントで「子供」や「子孫」を意味し、「エスペラントの後継者」としての位置づけを示しています。

歴史的背景

1907年、国際語選定委員会は、ルイ・クテュラの提案したエスペラントの改造案「イド」を検討しました。多くのエスペランティストは、エスペラントの発展を阻害する要因を改善する期待を抱いていました。エスペラントの創始者であるザメンホフ自身も、複数形の-iや対格の-nの廃止を提案しましたが、受け入れられませんでした。

ルイ・ド・ボーフロンは、パリでの国際語選定代表者会で、この改造案「イド」を発表しました。この発表は、国際エスペラント運動に大きな分裂を引き起こしました。特に、専門の言語学者からは支持を得ましたが、頻繁な文法規則の変更により、一般のエスペランティストからの支持は失われました。1920年代には改造は収束しましたが、多くの支持者を失った後でした。

現在でも、イド運動はインターネットを通じて活動を続けています。エスペラントのように大会も開催されますが、参加者はごく少数に留まっています。エスペラントの世界大会が2000人程度であるのに対し、イド語大会は20人未満の参加者数です。

文字と発音

イド語は、エスペラントの特殊文字であるĉ, ĵ, ŝ, ŭをそれぞれch, j, sh, wに変更しました。また、ĥを廃止し、ĝは単語によって異なる文字に置き換えました。エスペラントのjは、同じ発音のyに置き換えられています。一方、エスペラントのkvはquに、ks, kzはxに変わりました。アクセントは、原則として最後から2番目の母音に置かれますが、二重母音の場合は最後から3番目の母音に置かれます。ただし、動詞の不定詞は例外的に最後にアクセントがあります。

文法

イド語の文法は、人工言語として例外や不規則な動詞活用が少なく、覚えやすい特徴があります。以下に、基本的な接尾辞を示します。

名詞単数形：-o
名詞複数形：-i
形容詞：-a
副詞：-e
動詞不定現在形：-ar
動詞不定未来形：-or
動詞不定過去形：-ir
動詞現在形：-as
動詞未来形：-os
動詞過去形：-is
動詞命令形：-ez
仮定形：-us

人称代名詞には、me（私）、tu（あなた）、il（彼）、el（彼女）、ol（それ）、ni（私たち）、vi（あなたたち）、ili（彼ら/彼女ら/それら）などがあります。また、再帰代名詞のsu（自身）や、一般人称代名詞のon（人々）も存在します。

イド語の語順は、西ヨーロッパ言語と同様にSVO型（主語-動詞-目的語）が基本です。目的語が動詞の後ろに来る場合は、対格を示す語尾を付けません。しかし、対格語尾を付ければ、目的語を動詞の前に置くことも可能です。形容詞は、数や格による変化がありません。

イド語の例

以下は、ロシアの詩人ユンナ・モリツの詩にロシアの音楽家アレクサンドル・スカノブが曲を付けたものをイド語に訳したものです。

Mea vido-cirklo （私の視界）

参考文献

田中克彦 (2007). エスペラント - 異端の言語. 岩波書店.
二木紘三 (1994). 国際共通語の夢. 筑摩書房.

外部リンク

初めてのイド語
Ido-Skolo（イド語学校）
Idisti（イド語・フォーラム）
イド語版ウィクショナリー
* イド語まとめ @ ウィキ

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