イナモリソウ

イナモリソウ（学名: Pseudopyxis depressa Miq.）は、アカネ科に分類される多年生の草本植物です。その特徴は、地面に張り付くように広がる葉と、比較的大きな紅紫色の花をつけることです。

特徴

イナモリソウは、背丈が低く、通常3〜5cm程度ですが、時には10cmに達することもあります。地下には細長い根茎があり、そこから直立する茎が生えます。葉は対生で、2対または3対が茎の先端にロゼット状に集まって見えるのが特徴です。特に上部の2対の葉が接近しているため、4輪生のように見えることが多いです。葉の大きさは長さ3〜6cm、幅2〜4cmで、卵形または三角状卵形をしています。葉の先端は鋭く尖り、基部は丸みを帯びるか、やや心形にくぼんでいます。葉柄は3〜10mmで、葉全体に短い軟毛が密生しています。托葉は小さな三角形で、先端が尖っており、長い軟毛があります。

花期は5〜6月で、葉の付け根から1つずつ、または枝先に1〜2つの紅紫色の花を咲かせます。萼は釣り鐘型で、先端が尖った広披針形の裂片が5つあります。また、萼の表面には剛毛が密生しています。花冠は長さ2.5cmで、内側には短い毛がまばらに生えています。雄しべは5本で、花冠の筒部の上部に付着し、花糸は短いです。蒴果は長さ3mm、幅6mmの倒三角形をしています。

和名の由来は、江戸時代に尾張の花屋の九兵衛が、現在の三重県菰野町の稲盛山で発見したことにちなむとされています。

分布と生育環境

イナモリソウは日本固有種であり、関東地方以西の本州、四国、九州に分布しています。主に山地の路傍などの、土が崩れて他の植物が生育しにくい場所に群生することが多いです。

類似種

イナモリソウ属（Pseudopyxis）は日本固有の属で、本種とシロバナイナモリソウ（P. heterophylla）の2種のみが知られています。シロバナイナモリソウは、その名の通り花の色が白く、また、イナモリソウよりも背が高く、葉が茎に間隔を置いて付く点が異なります。

また、名前が似ているサツマイナモリ（Ophiorrhiza japonica）は、別属のサツマイナモリ属に分類されます。この属には、琉球列島に他の種が分布しています。

保護の状況

イナモリソウは、環境省のレッドリストには掲載されていません。しかし、都道府県レベルのレッドリストでは、分布域の境界付近の地域で指定されている例があります。減少の要因の一つとして、園芸目的の採取が挙げられています。

出典

佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他『日本の野生植物　草本III 合弁花類』,(1981),平凡社
北村四郎・村田源・堀勝、『原色日本植物図鑑・草本偏I』、(1957)、保育社
* 福岡誠行、「ハクチョウゲ」『朝日百科 植物の世界 2』、(1997)、朝日新聞社：p.24-25

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