イヌカタヒバ

イヌカタヒバ (Selaginella moellendorffii Hieron.)

概要

イヌカタヒバはイワヒバ科に属するシダ植物で、日本では八重山諸島にのみ自生しています。しかしながら、栽培から逸出した個体が日本本土に定着し、広範囲にわたって目にすることができるようになっています。

特徴

この植物は常緑性の草本で、地下茎がコケ類の間を匍匐しながら伸びます。地下茎の直径はおおよそ1.2mmで、表面には藁色の葉が付着し、また根を出しています。茎の先端は徐々に地上に立ち上がり、3～4回の分枝を形成しますが、実際の葉は茎の表面に沿って並ぶ鱗状のもので、全体的には普通のシダの葉のような形をしています。

地上茎の分枝は、葉柄のように見える部分があり、この部分の長さは全体の約半分に達します。分枝から展開する葉身状の部分は広卵状三角形をしており、長さは12～25cm、幅は5-10cm程度です。

真正の葉は茎の基部にまばらに配置され、同じ形状をしており、左右対称で先端は尖っています。葉の縁は滑らかで、中肋がはっきりしています。この部分には2つの形態があり、茎の上面に向く背葉と側面に伸びる大きな腹葉があります。背葉は卵形で先端が少し突き出し、膜状に広がる縁を持ちます。腹葉も卵形で先端が尖り、基部は不揃いです。

胞子嚢は茎の先端に集まって形成され、特にこの種では個々の胞子嚢が独立して生じ、長さは5～15mmに及びます。秋になると、小さな葉が集まった無性芽（植芽）を生成し、晩秋には赤褐色に紅葉することも見られます。

分布と生育環境

イヌカタヒバは中国からベトナム、台湾、フィリピンに分布しており、日本では八重山諸島の石垣島と西表島に確認されています。この地域は本種の北限に位置しています。日本本土では栽培品から逸出したものが各地に広がり、特に本州のいくつかの地域で見られています。

生育環境としては、沢沿いの湿った岩の上が最も一般的であり、日当たりの良い場所を好みますが、高所の樹幹にも見られることがあります。移入された個体は人家の石垣などでも見かけることができます。また、この植物は野外で越冬することができるため、多少の耐寒性を持っています。

類似種

イヌカタヒバを含むイワヒバ属には約800種が知られており、日本国内でも18種ほど存在します。その中には、這うように生育するものや立ち上がるものがあり、イヌカタヒバもその一つです。中でもカタヒバ（S. involvens）が本種と似ているため、特に比較されることが多いです。カタヒバは日本本土でも一般的に見られるため、両者の判別には注意が必要です。

本種の断面は稜形であったり、背葉の先端が芒状に突き出すのに対して、カタヒバは円形で先端が尖る程度となっています。この他にもツルカタヒバ（S. biformis）という類似種があり、これは日本では沖縄本島からしか確認されていません。ツルカタヒバは茎が有毛である点が特徴的です。

利用

中国ではイヌカタヒバが解熱や利尿、止血などに利用されています。

研究の重要性

本種は全ゲノムの解読が行われ、シダ植物として初めての事例となりました。この研究は植物の進化を理解する上で重要な情報を提供しており、現存する維管束植物の進化の中で、この植物のゲノム解析が役立っています。特にこの植物が選ばれた背景には、ゲノムサイズが小さいことがあります。

保護の状況

環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧II類に指定されており、沖縄県でも同様の状態にあります。生育地は極めて限られており、石垣島や西表島に加え、高知県では一時指定されていましたが、その後栽培逸出と判断され除外されました。しかしながら本土では、かえってカタヒバよりも見かける機会が増えています。

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