イヌゴマ属

イヌゴマ属（Stachys）について

イヌゴマ属は、シソ科オドリコソウ亜科に分類される植物のグループです。この属には、一年草、越年草、多年草、そしてまれに半低木となる種が含まれており、その多様性が特徴です。世界中の温帯地域に広く分布し、その数は約280種にも及びます。日本には、在来種のイヌゴマ1種に加え、いくつかの帰化種が確認されています。

特徴

イヌゴマ属の植物は、対生する葉を持ち、多くの場合、葉柄がありますが、まれに無柄のものも見られます。葉の縁には細かい鋸歯があります。花は茎の上部の葉腋に輪生花序を形成し、2個から多数の花をつけ、茎の先端には花穂を作ります。萼は筒状の鐘形で、先端が5つに裂けており、裂片はほぼ同じ長さで、5脈または10脈があります。花冠は特徴的な2唇形で、上唇は直立してややかぶと状になるか、ほぼ平坦で、下唇は3つに裂けており、中央の裂片が大きくなります。雄しべは4本あり、下側の2本が長く、上唇の内側に沿って伸びますが、花冠を超えることはありません。子房は2つの心皮からなり、4つに分かれており、基部から花柱が伸びています。果実は乾いた4分果で、各分果は卵形から長球形ですが、まれにやや扁平で3つの稜があるものもあります。

分布

イヌゴマ属は、オーストラリアを除く世界の温帯地域に広く分布しています。約280種が確認されており、多様な環境に適応しています。日本では、イヌゴマが在来種として分布しており、ヤブチョロギやオトメイヌゴマなどの数種が帰化植物として定着しています。また、チョロギのように塊茎を食用とする種や、花が美しいことから観賞用として栽培される種もあります。

名前

属名のStachysは、ギリシャ語のstachyus（耳、麦の穂）に由来しており、これは花の付き方が麦の穂に似ていることにちなんでいます。

日本に分布する主な種

イヌゴマ (Stachys aspera var. hispidula): 多年草で、茎は直立し、高さは30-70 cmになります。茎には4つの稜があり、下向きの刺毛が生えています。花冠は淡紅色で、下唇には紅色の細点があります。湿地に生育し、南千島、北海道、本州、九州に分布します。国外では、朝鮮半島、中国大陸（東北部・北部）、極東ロシアにも分布しています。
エゾイヌゴマ (Stachys aspera var. baicalensis): 植物体全体に剛毛が密生する変種です。本州、北海道、千島列島、サハリン、朝鮮半島、極東ロシア、東シベリアに分布しています。
ケナシイヌゴマ (Stachys aspera var. japonica): 植物体全体に毛がなく、茎の稜に短い刺がまばらにある変種です。本州中部地方以西、四国、九州、沖縄島、朝鮮半島、中国大陸に分布します。

日本に帰化する主な種

ヤブチョロギ (Stachys arvensis): 別名ヤブイヌゴマとも呼ばれる越年草です。茎は基部から分枝して立ち上がり、高さは10-40 cmになります。全体にまばらに毛が生えており、花冠は淡紅色で、萼や葉が紅紫色になることがあります。ヨーロッパ原産で、南アメリカ、北アメリカ、オーストラリア、アジアの暖地に広がっており、日本では本州（新潟県および近畿地方以西）、九州、琉球に帰化しています。
オトメイヌゴマ (Stachys palustris): 多年草で、植物体全体に白毛が密生しています。茎は直立し、高さは約1 mになり、花冠は濃紅紫色から淡紫色で、下唇には白斑があります。ヨーロッパ中部から北部の原産で、世界各地に帰化しています。日本では、北海道や千葉県で知られています。
セイヨウイヌゴマ (Stachys annua)

その他、栽培種

チョロギ (Stachys sieboldii): 多年草で、塊茎を食用とするために栽培されます。花冠は紅紫色で、下唇には赤い斑点があります。中国原産です。
ベニイヌゴマ(Stachys coccinea)
ワタチョロギ(Stachys lanata)
カッコウソウ（カッコウチョロギ)(Stachys officinalis)
* ワタイヌゴマ(Stachys olympica)




イヌゴマ属は、その多様な形態と生態、そして人間との関わりにおいて、興味深い植物群です。

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