イヌヤチスギラン

イヌヤチスギラン（犬谷地杉蘭）について

基本情報

イヌヤチスギラン（Pseudolycopodiella caroliniana）は、ヒカゲノカズラ科に属する小葉植物であり、その見た目はヤチスギランと似通っていますが、葉の形状や生態において明確に区別されています。特に、日本では滋賀県の湿地にのみ自生しており、環境省のレッドリストでは絶滅危惧IA類（CR）に指定されています。

形態的特徴

イヌヤチスギランの茎には直立茎と匍匐茎が存在し、匍匐茎は湿地を這うように成長し、直径は約8〜12mm、長さは約10cmに達します。この匍匐茎はそこから二又分枝し、疎らに根を発生させて葉を密に付けます。

葉の特徴

葉は鋭尖頭で、全縁の形状を持っており、匍匐茎に付く葉と直立茎に付く葉では異なる特徴を見せます。匍匐茎の背側の葉は線形から線状披針形であり、腹側の葉は披針形から狭楕円形で、サイズも異なります。また、胞子葉と栄養葉も形状が異なり、胞子葉は広卵形になります。

胞子体の構造

直立茎は高く成長し、先端には胞子嚢穂を持ちます。直立茎自体は枝分かれせず、高さは5〜30cmに及び、胞子嚢穂は1〜12cmの長さになります。胞子葉は広卵形で、葉の基部は茎に沿っていますが、先端部は開出し不規則な鋸歯縁を持っています。

倍数性と染色体

イヌヤチスギランの日本の個体群は2倍体であり、海外では3倍体や4倍体の報告も存在します。染色体数は、日本ではn=68で、海外では2n=78のケースが見られ、かなりの変異が認められています。

生態と分布

日本国内では、イヌヤチスギランは滋賀県の湿地に一地点のみ生育しています。この地は夏緑性と見なされ、生育期の終わりには匍匐茎の先端が残り越冬しますが、日当たりの悪さに対して敏感であり、周囲の藻類やコケ植物との競争が生じます。特に、この植物の胞子嚢穂は9月から10月にかけて成熟します。

環境への影響

イヌヤチスギランは、この湿地の乾燥化の影響を受けており、その生息地の環境が脅かされています。大阪公立大学附属植物園では保全の試みが続けられているものの、この科の栽培は困難であり、イヌヤチスギランの回復は進んでいません。

系統関係と分類

イヌヤチスギラン属は1983年にホルブによって発表され、分子系統解析により、従来のヒカゲノカズラ属からの細分化が進みました。イヌヤチスギランは現在、約10種を含む属に分類されており、特に広義のヒカゲノカズラ属においては、その多様性が問題視されています。日本の植物分類体系でも、イヌヤチスギランは長らく旧来の分類法に見られることが多く、進化した考えが定着していない状況です。

結論

イヌヤチスギランは環境変化に敏感であり、その希少性は生物多様性の観点から非常に重要です。現在の保全活動がこの珍しい植物種の生存に寄与することが求められます。

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