イブン・アル＝ハティーブ

イブン・アル＝ハティーブ：ナスル朝グラナダの宰相、歴史家、詩人

イブン・アル＝ハティーブ（1313年 - 1375年）は、ナスル朝グラナダの政治家、歴史家、詩人として重要な足跡を残しました。本名はムハンマド・イブン・アブド・アッラー・イブン・サイード・イブン・アリ・イブン・アフマド・アル＝サルマニといい、その生涯は政治的陰謀と学術的探求に彩られています。

生い立ちと政界入り

イブン・アル＝ハティーブは、8世紀にイベリア半島に移住したイエメン系アラブ族を祖先とする名門の家に生まれました。グラナダ近郊のロハで生まれた彼は、グラナダで学問を修め、その才能を開花させます。1340年に父が戦死した後、ユースフ1世に書記官として仕え、1349年には宰相イブン・ジャイヤーブがペストで亡くなると、その後任として宰相に任命され、政治家としてのキャリアをスタートさせました。

宰相としての活躍と亡命

ムハンマド5世の治世でも宰相を務めたイブン・アル＝ハティーブでしたが、1359年のクーデターでムハンマド5世が廃位されると、自身も投獄されます。その後、マリーン朝スルタン・アブー・サーリムの仲介で解放され、ムハンマド5世と共にモロッコのフェズへ亡命しました。この亡命中に、歴史家イブン・ハルドゥーンと交流を深め、後に彼をグラナダに迎え入れることになります。

イブン・ハルドゥーンとの交流と不和

ムハンマド5世の復位後、イブン・アル＝ハティーブも宰相に復職し、イブン・ハルドゥーンをグラナダに招聘しました。しかし、宮廷内の反感や教育方針の違いから、両者の関係は次第に悪化し、イブン・アル＝ハティーブはイブン・ハルドゥーンが自発的に宮廷を去るように仕向けました。その後、関係修復を試みるも、かつての親密な関係を取り戻すことはできませんでした。

失脚と最期

イブン・ハルドゥーンが去った後、イブン・アル＝ハティーブはムハンマド5世からの信任を独占するようになりますが、他の廷臣たちの妬みを買い、陰謀に巻き込まれます。身の危険を感じた彼は、1371年から1372年の間にマリーン朝のアブド・アル＝アズィーズ1世を頼ってトレムセンに亡命しますが、裏切り者として非難され、ムハンマド5世からも疑念を抱かれるようになります。マリーン朝で政変が起こり、ムハンマド5世と密約を交わしたアブー・アル＝アッバース・アフマドが即位すると、イブン・アル＝ハティーブはグラナダに召喚され、宗教裁判にかけられた後、獄中で斬殺されました。

業績

イブン・アル＝ハティーブは、歴史、地理、詩、医学など多岐にわたる分野で60以上の著作を残しました。中でも『グラナダ史』は代表作として知られています。また、行政の実務においても、公文書の書式を改良するなど、その才能を発揮しました。

関連項目

* イブン・バットゥータ：旅行家イブン・バットゥータの晩年について、イブン・アル＝ハティーブは彼が法官を務め、1368年/69年に没したことを伝えています。

イブン・アル＝ハティーブの生涯は、政治的陰謀と学術的探求が交錯する波乱に満ちたものでしたが、彼の残した業績は、ナスル朝グラナダの歴史を語る上で欠かすことのできないものとなっています。

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