イブン・シャーティル

イブン・シャーティルの業績と影響

イブン・シャーティル（Ibn al-Shāṭir）は、1305年頃にダマスクスで生まれ、1375年頃に同地で没した14世紀の天文学者です。彼はウマイヤ・モスクでムワッキトの職を務めており、計時や宇宙の構造に関する重要な著作を多数残しました。その中でも特に注目されるのが、彼の宇宙構造論であり、これはプトレマイオスの『アルマゲスト』のモデルに革新を加えたものです。イブン・シャーティルの理論は、地動説とは異なる天動説の一種ですが、後の天文学において重要な影響を与えたと考えられています。

生涯と教育

イブン・シャーティルは、家族の後ろ盾もあり、早くから教育を受けました。父を6歳の時に亡くし、祖父に育てられ、幼少の頃から象牙細工などの技術も学びました。10歳の時にはエジプトに赴き、天文学の学びを深めます。彼が天文学に特に魅力を感じた背景には、当時のエジプトにおける天文表と観測機器の制作の盛況があったと考えられています。

ダマスクスに戻った後、イブン・シャーティルはウマイヤ・モスクでムワッキトとしての職務を遂行しました。同職において、彼は天文学の研究を続け、多くの重要な著作を残していきます。

主要な著作と計時器具の開発

シャーティルの著作は多岐にわたりますが、彼の天体運行理論はその中でも特に重要です。また、計時学に関する著作や観測機器についても様々なキターブ（書籍）やリサーラ（論文）を書きました。中でも、彼の作成したアストロラーブは中世イスラーム圏における精密科学の象徴とも言われています。これにより、彼は天文学の発展に寄与しただけでなく、計時器具の設計においても重要な役割を果たしました。

彼の計時器具、特にウマイヤ・モスクに設置された日時計は、反射的で精度の高いものであり、当時の技術水準を示すものです。さらに、アレッポに保管されている別の日時計も、彼の技術を物語っています。

影響とその後の評価

イブン・シャーティルの理論がコペルニクスに与えた影響については、多くの議論がありますが、彼の黄経に関する理論はコペルニクスのものと極めて類似しており、現代の研究でも頻繁に議論されています。イブン・シャーティルは、従来のモデルの問題点を指摘し、新たな天文学の視点を提供しました。

シャーティルの成果は、特に月の運行や太陽の視直径に関して、プトレマイオスのモデルよりも改善されていた点が注目されています。彼の理論は、計算上も実用的な要素を備え、当時の天文学者にとって重要な道標となりました。

まとめ

イブン・シャーティルの業績は、14世紀のムスリム天文学の中でも際立っています。彼の理論は単なる天動説を超え、天文学に革命的な視点を提供しました。特に、彼の計時器具や天体運行の理論は、後の科学的発展に大きく寄与し、今後も研究が続けられるべきテーマとなっています。

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