イベリア航空062便墜落事故

イベリア航空062便墜落事故の概要

1967年11月4日、スペインのマラガ空港からロンドンのヒースロー空港へ向かっていたイベリア航空062便（シュド・カラベル10R型機）が、イギリスのブラックダウン付近に墜落しました。この事故により、乗員乗客37名全員が亡くなるという痛ましい結果となりました。

事故機について

事故を起こした機体は、シュド・カラベル10R（登録記号：EC-BDD）で、製造番号202として製造され、1966年4月20日に初飛行しました。エンジンはプラット・アンド・ホイットニー JT8D-7を搭載していました。この機体は、当時比較的新しい航空機でした。

事故発生の経緯

062便は、UTC19時30分にマラガ空港を出発し、ヒースロー空港へ向けて順調に飛行していました。当日は断続的に霧雨が降り、やや霧も出ていましたが、視界は概ね良好でした。飛行中、特に問題は報告されていませんでした。

062便は、高度11,000フィート（FL110）から6,000フィート（FL60）への降下許可を受け、緩やかに降下を開始しました。しかし、その約5分半後の22時02分頃、062便はブラックダウンの木々に衝突しました。その後、大きな生垣を突き破って牧草地を横切り、巻き込まれた65頭の羊が死亡、さらに23頭が致命傷を負いました。機体はそのまま進み、ガレージやアッパー・ブラックダウン・ハウスの屋根の一部を破壊して停止しました。この事故により、乗員乗客37名全員が命を落としました。

機体に積まれていた燃料により、墜落現場一帯の森林に小規模な火災が発生し、機体の破片は325mもの広範囲に散乱しました。

事故調査

事故調査の結果、062便が指定された高度を下回って降下した理由は特定できませんでした。管制官との交信記録や回収されたコックピットボイスレコーダーには異常は見られませんでした。事故調査報告書では、「墜落前に機体やエンジンに故障や欠陥があったことを示す証拠は発見できなかった」と結論づけられました。

しかし、報告書では、パイロットが高度計を誤読した可能性が指摘されています。062便に搭載されていた高度計は、高度が10,000フィート以下になると警告が表示される「3ポインター」と呼ばれるタイプのものでした。この高度計では、10,000フィートを示す針の位置に注意しないと、6,000フィートの表示を16,000フィートと誤読する可能性がありました。

事故調査報告書には、以下のような記述があります。

>航空機は13分半にわたって一定の速度で降下しており、その間ポインターは作動し続けていたため誤読の可能性が高まった。このタイプの高度計のクロスハッチングは指示された高度の26,666フィートで初めて10,000フィートのディスクの画面に現れ、その端の値は航空機が降下を開始してから2分以内に見えたはずである。高度10,000フィートでそのクロスハッチングが完全に画面を満たし、航空機が高度10,000フィート以下にいる限りは満たされたままである。したがって、クロスハッチングは航空機がFL60を通過する前の約9分半の間パイロットに見えていたはずであった。しかし、それが降下の段階でパイロットにとって有効に機能していたかどうかについては推測の域を出ない。

>このタイプの高度計では、特に10,000フィートの指針の位置に注意しなければ6,000フィートの表示を16,000フィートと誤読することは容易に考えられる。しかし、この種の単純な誤読の可能性を否定する証拠として062便がFL145を通過した際の交信記録がある。

この記述は、パイロットが高度計の表示を誤読し、実際よりも高い高度を飛行していると錯覚した可能性を示唆しています。ただし、この説を裏付ける決定的な証拠は見つかっていません。

犠牲者について

この事故の犠牲者の中には、イギリスの女優ジューン・ソーバーンも含まれていました。彼女は当時妊娠5ヶ月でした。

サリー州ブルックウッドのブルックウッド墓地には、事故現場から北へ28kmの場所に、犠牲者19人のための集団墓地と慰霊碑があります。

犠牲者37人の国籍は以下の通りです。

イギリス：21人
アメリカ：8人
スペイン：5人
アイルランド：2人
オーストラリア：1人

まとめ

イベリア航空062便墜落事故は、原因が特定されないまま多くの犠牲者を出した悲劇的な航空事故です。高度計の誤読という仮説は、事故原因解明の手がかりとなる可能性を示唆していますが、決定的な証拠は見つかっていません。この事故は、航空機の安全対策やパイロットの訓練における重要性を改めて認識させるものとなりました。

関連項目

ユナイテッド航空389便墜落事故

脚注

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