イラク航空

イラク航空：中近東の空を翔ける歴史と挑戦

イラク航空は、中近東地域で最も歴史のある航空会社の一つとして知られています。1946年の設立以来、イラク国内外の空を繋ぎ、その発展に貢献してきました。しかし、その歴史は決して平坦なものではありませんでした。イラン・イラク戦争、湾岸戦争、イラク戦争といった数々の激動を経験し、幾度となく危機に瀕しながらも、イラク航空は再建を繰り返し、現在もイラクの空を飛び続けています。

創業から黄金期へ

第二次世界大戦終結後の1946年、イラク航空は設立されました。当初は小型機材による運航でしたが、ビッカース バイカウントなどの新型機材を導入することで路線網を徐々に拡大していきました。冷戦下では東西両陣営の航空機を導入するなど、独自の道を歩み、1970年代には石油価格の高騰による好況を追い風に、ボーイング707やボーイング747といった大型機を導入。ロンドン、東京、ニューヨーク、モスクワなど世界主要都市への路線を開設しました。この時代は、イラク航空にとって黄金期と言えるでしょう。日本への路線は、1978年から1990年まで運航され、成田空港（当時新東京国際空港）への直行便には、日本人乗客向けの和食メニューも提供されていました。

戦争と制裁の時代

しかし、1980年のイラン・イラク戦争の勃発により、イラク航空は大きな打撃を受けます。多くの国際線が運航休止を余儀なくされました。戦争終結後、国際線の運航を再開しましたが、1990年のクウェート侵攻によって再び国際線の運航がほぼ停止。クウェート航空の機材を接収する事態にもなりました。続く湾岸戦争では、多国籍軍の攻撃により多くの機材が破壊・損傷。イランやヨルダンに避難させた機材もあったものの、多くの機材はバグダード国際空港などで放置され、荒廃していきました。国連の制裁により、国際線はメッカ巡礼便のみに制限され、イラク航空は厳しい状況に置かれました。2003年のイラク戦争は、イラク航空にとってさらなる試練となりました。バグダードなどに地上保存されていた機材が攻撃を受け、完全に破壊されたものも多くありました。

再生への歩み

サッダーム・フセイン政権崩壊後、イラク航空は政府からエア・イラク社に移管され、新たなスタートを切ります。アメリカ政府からの資金援助を受け、中古機材の導入や残存機材の整備を行い、2004年10月にはバグダード-アンマン線の運航を再開。その後、国内線やその他の国際線の運航も順次再開されました。2010年には解散が決まりましたが、クウェートとの湾岸戦争における賠償問題の解決を受けて存続が決定。その後はボーイング767-300ER、ボーイング747-400、エアバスA330-200、ボーイング777-200LRなどの中古機材を導入し、路線網の拡大を進めています。中国やイギリスなどへの新たな路線開設も実現しました。

現在と未来

現在、イラク航空はボーイング737-800、エアバスA330-200、ボーイング777-200LRなどを運用し、イラク国内や中東、アジア、ヨーロッパ、アフリカの都市へ路線を展開しています。しかし、機材のリースに頼っているため、運用や整備の効率化が課題となっています。また、EU域内への乗り入れは禁止されています。過去の戦争や制裁の影響は現在も残っていますが、イラク航空は着実に再生に向けた歩みを続けています。未来に向けて、更なる発展が期待されます。

ロゴマークと特徴

イラク国旗の緑を基調としたロゴマークは、ツバメを意味するアラビア語「スヌーヌ」をモチーフにしています。また、イラク航空はリコンファーム制度が残っている数少ない航空会社の一つであり、出発5日前または120時間前までに予約の再確認が必要となります。マイレージプログラムは現在ありません。

退役機材

バグダード国際空港には、湾岸戦争以前の機材であるボーイング747SP、イリューシンIl-76、アントノフAn-24などが放置されたままになっています。長年の放置と部品盗難により、修理は不可能な状態です。

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