イルティッシュ号投降事件

イルティッシュ号投降事件

イルティッシュ号投降事件は、日露戦争中の1905年5月28日に日本海で発生した歴史的な出来事です。この事件では、ロシアの特務運送船イルティッシュ号が日本海海戦で損傷を受け、最終的に日本に投降しました。

事件の経緯

出港

イルティッシュ号は、日露戦争開戦に伴い、ドイツから購入された輸送船であり、リバウ港で軍用の運送船に改造されました。1904年9月初旬、艤装が完了し、同年にはバルチック艦隊に合流しました。艦隊は皇帝の視察を受けるためにレベル港に回送される予定でしたが、イルティッシュ号は途中で座礁し、損傷を負ってしまいます。そのため、親閲の後に再びリバウ港に戻り、約2ヶ月をかけて修理を受けました。

1904年12月、バルチック艦隊本隊はアフリカ南端を通過してマダガスカル島に到達しました。イルティッシュ号はスエズ運河経由でジプティ港に待機するよう命じられ、1905年1月末には本隊への合流の指示を受けて南下し、無事に合流しました。艦隊は5月20日にバタン沖を通過し、以降、艦船への物資の移動が行われ、その後、6隻の運送船が残って本国へ帰航しました。

日本海海戦

5月27日、イルティッシュ号は日本海海戦に参加するため出航しました。しかし、多くの可燃物と砲弾を搭載していたため、激しい攻撃を避ける必要がありました。艦隊を失った上、瓜生艦隊からの追撃を受け、大きな損傷を受けてしまいます。艦長エゴルムイシェフは、乗員を集め、日本の海岸沿いを通りウラジオストク港を目指す決定を下しました。

投降と救助

28日の午前10時頃、イルティッシュ号は江川尻沖合に接近したものの、浸水が激しく危険な状態でした。艦長はB旗（攻撃を受けている）とN旗（救助を求める）を掲げ、投錨しました。乗組員は6隻のボートに分乗し、沿岸に向かうことにしました。沿岸では、江津警察署が警戒にあたっており、近隣の住民たちもこの状況に気付き騒然となります。やがて白旗を確認し、住民たちは救助活動を開始しました。

しかし、強風に煽られたボートは岩に乗り上げてしまい、ロシア兵が海に投げ出される事態が発生しました。沿岸の住民たちは荒波の中、ボートを岸まで引き揚げるために奮闘しました。午後6時までに、負傷した兵士を含む200人以上が無事に救助されました。住民たちは、ロシア兵たちに温かい炊き出しを行い、感謝の意を示しました。この交互の文化交流は、後の慰霊祭にもつながる出来事となったのです。

上陸後

夕刻、住民による救助活動により無事岸に上陸したロシア兵たちは、浜田の歩兵第21連隊に連絡が入る中で、非常呼集が行われました。連隊が満州にいる中、留守部隊の一部が和木に向かう準備をしていました。そして、投降したロシア兵たちは次々と和木小学校や嘉久志の森脇宅などに収容され、医療が施されました。

イルティッシュ号は5月29日同時刻に水面下に沈没し、索敵を行う漁船によってその後の状況が報告されました。港に送られるロシア兵たちは、約1か月後に道後の捕虜収容所へ移送されました。

後日談

和木地区では、信号旗や照明器具、砲弾などの遺品が保存され、ロシア兵の慰霊祭が長年にわたり行われています。江津市でもイルティッシュ号の乗組員を悼む慰霊碑が建立されています。また、過去にはイルティッシュ号の沈没にまつわる金塊騒動もあり、近年には海底に沈むイルティッシュ号の確認が行われました。

この事件は日露戦争の中でも特異なエピソードとして、今も語り継がれています。

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