イングランドの典礼カウンティ

イングランドの典礼カウンティ：歴史と現状

イングランドの典礼カウンティ（Ceremonial County）は、地方自治体の単位とは異なる、歴史的・儀礼的な地域区分です。現代の行政区分とは異なる独自の体系を持ち、地方長官（Lord-Lieutenant）の任命といった儀礼的な側面で重要な役割を果たしています。その歴史は古く、地方自治法の改正や行政区域の再編を経ながらも、現在に至るまでイングランドの地理的・歴史的枠組みとして存在感を保っています。

歴史的背景

地方長官の任命のためのカウンティと行政のためのカウンティという概念の区別は、古くから存在していました。例えば、ヨークシャーの3つのライディングは17世紀以降、それぞれが独立した地方長官の管轄区域として扱われていました。1888年の地方自治法によりカウンティ議会が設置され、行政カウンティが明確に定義されました。この法律によって、伝統的なカウンティの境界と行政上の境界が明確に区別されることとなり、行政カウンティの創設、ロンドンのカウンティの再編といった大きな変化がもたらされました。

しかし、それまでのカウンティの細分化は、典礼カウンティとして維持されました。例えば、イースト・サフォークとウェスト・サフォークは、イプスウィッチ市と共にサフォークという単一の典礼カウンティを構成しました。ワイト島はハンプシャーの一部として典礼カウンティに分類されました。この「典礼カウンティ」という用語は、当時既に使用されていた「カウンティ」や「地理カウンティ」という表現と比較して、時代錯誤的な側面を持つと指摘されています。

1974年の地方自治法の大改革では、行政カウンティとカウンティ・バラが廃止され、都市カウンティと非都市カウンティが新たに設置されました。この改革によって、地方長官の管轄区域も再定義され、典礼カウンティと行政カウンティの区別が再び明確化されました。エイヴォン、クリーヴランド、ヘレフォード・アンド・ウスター、ハンバーサイドといったカウンティが廃止され、新たな典礼カウンティの構成が定められました。ラトランドは典礼カウンティとして復活しました。多くのカウンティ・バラは「単一自治体」として再編されましたが、典礼カウンティとは異なる扱いをされました。

1997年の地方長官法では、地方長官の管轄区域を明確に定義し直し、「典礼カウンティ」という表現が法的に使用されるようになりました。この法律では、都市・非都市カウンティ、グレーター・ロンドン、シリー諸島などを含む地方長官の管轄区域が明確に定められています。その後も、地方自治体の構造的な変更に伴い、構成自治体に変化がありましたが、各カウンティの区域そのものは基本的に変更されていません。

現在の典礼カウンティ

2019年現在、イングランドには48の典礼カウンティが存在します。これらの典礼カウンティは、地方長官の任命地域と一致しており、シティ・オブ・ロンドンを除き、それぞれに1名の地方長官が任命されています。典礼カウンティは、歴史的背景と儀礼的な役割を併せ持つ、イングランド固有の地域区分として、現在もその存在感を保っています。伝統的なカウンティ・ロビー団体は、典礼カウンティの境界を歴史的な境界に戻すべきだと主張しています。しかしながら、現代の行政区分との関係性や、実務上の問題から、その実現には課題も多いと考えられます。

まとめ

イングランドの典礼カウンティは、歴史と伝統を背景に、現代の行政区分とは異なる独自の体系を持つ、興味深い地域区分です。地方長官の任命といった儀礼的な側面だけでなく、イングランドの歴史や文化を理解する上で重要な要素となっています。典礼カウンティの将来像は、歴史的保存と行政効率のバランスを取りながら検討していく必要があるでしょう。

もう一度検索