イングリッシュ・セツルメント

XTC『イングリッシュ・セツルメント』

『イングリッシュ・セツルメント』(English Settlement)は、イギリスのロックバンド、XTCが1982年に世に送り出した通算5枚目のスタジオ・アルバムです。ヴァージン・レーベルとゲフィン・レーベルから同時に発表され、バンドのキャリアにおいて商業的にも批評的にも重要な位置を占める作品となりました。

制作背景とレコーディング

アルバムの録音作業は、1981年の秋、具体的には10月から11月にかけて、オックスフォード郊外にある歴史的なマナー・スタジオ(The Manor Studio)にて行われました。プロデューサーおよびレコーディング・エンジニアは、ピーター・ガブリエルやフィル・コリンズとの仕事でも知られるヒュー・パジャムが担当しており、彼の繊細かつ力強いサウンドメイクが本作のプロダクションに大きく貢献しています。

アートワークと音楽性

ジャケット・アートワークには、イングランドの丘陵に古くから描かれている有名な地上絵、アフィントンの白馬がフィーチャーされています。この象徴的なイメージは、アルバム全体のサウンドと呼応するように、イギリスの田園風景や歴史、そして内省的な雰囲気を醸し出しています。音楽的には、これまでの彼らの作品に比べてより複雑で、アコースティックな要素や、より広がりを持ったサウンドスケープが取り入れられています。個々の楽曲は長尺化する傾向も見られ、従来のポップな魅力に加え、プログレッシブな側面も顔を覗かせています。

リリース形態と収録曲数の違い

本作はリリースされた地域によって、収録曲数とLPの構成が異なっていた点が特徴です。イギリス本国では2枚組LPとして全15曲が収録されました。一方、アメリカや日本では、市場の慣習に合わせてか、収録曲が絞り込まれ、1枚のLP盤に全10曲が収められた形で販売されました。この違いは、当時の各国のレコード市場の状況や、バンドおよびレーベルの戦略を反映したものと言えるでしょう。

参加メンバー

本作のレコーディングには、当時のバンドのレギュラー・メンバー4人が中心となって参加しています。

アンディ・パートリッジ (Andy Partridge): ギター、ボーカルを担当。
コリン・モールディング (Colin Moulding): ベース、ボーカルを担当。
デイヴ・グレゴリー (Dave Gregory): ギター、シンセサイザー、バック・ボーカルを担当。
テリー・チェンバーズ (Terry Chambers): ドラムスを担当。

さらに、数曲ではゲスト・ボーカリストが迎えられています。「Ball and Chain」にはプロデューサーでもあるヒュー・パジャムがバック・ボーカルで参加。また、「It's Nearly Africa」にはHans de Venteがバック・ボーカルとしてクレジットされています。なお、本作はドラマーのテリー・チェンバーズがXTCの公式な作品で最後にクレジットされたアルバムであり、彼がレギュラーメンバーとして参加した最後の作品となりました。

商業的成功とバンドの転機

商業面では、『イングリッシュ・セツルメント』はバンドにとって大きな成功を収めました。特にイギリスでは、全英アルバム・チャートでバンド史上初めてとなるトップ10入り（最高位5位）を果たし、彼らの人気と評価が確立されたことを示しました。しかし、このアルバムの成功とは裏腹に、バンドのキャリアに決定的な影響を与える出来事が起こります。

アルバム発表に伴うツアーのリハーサル中および初期の公演で、中心メンバーであるアンディ・パートリッジが深刻なステージ恐怖症に見舞われたのです。症状は日を追うごとに悪化し、ライブパフォーマンスが困難になった結果、予定されていたツアーは急遽中止されることとなりました。この出来事は、それまで精力的にライブ活動を行ってきたXTCにとって、活動形態の大きな転換点となりました。アンディ・パートリッジはその後、現在に至るまで公の場でのライブパフォーマンスを行っておらず、XTCはスタジオワークを中心とするバンドへと活動の軸を移すことになります。

『イングリッシュ・セツルメント』は、音楽的な完成度の高さと商業的な成功を収めた一方で、バンドのライブ活動停止という劇的な変化の引き金となった、XTCの歴史において極めて象徴的な作品と言えるでしょう。

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