イングリッシュ・ミディアム

『イングリッシュ・ミディアム』（Angrezi Medium）

2020年に公開されたインドのコメディドラマ映画です。2017年の成功作『ヒンディー・ミディアム』とは直接的な続編ではありませんが、その精神的なテーマを受け継ぐ作品として位置づけられています。監督はホーミー・アダジャニアが務め、主演には惜しくも公開後にこの世を去り、本作が遺作となった名優イルファーン・カーンをはじめ、ラーディカー・マダン、ディーパク・ドブリヤル、カリーナ・カプールといった実力派俳優たちが名を連ねています。

撮影は2019年の4月から7月にかけて、主にインドのウダイプルとイギリスのロンドンで行われました。公開は2020年3月13日でしたが、世界的に拡大した新型コロナウイルス感染症の影響により、劇場が閉鎖される事態となり、興行成績は大きな打撃を受けました。劇場での再上映は叶わず、公開から約1か月後の4月からはDisney+ Hotstarでのデジタル配信に切り替えられるという異例の公開形態となりました。

ストーリー

物語の舞台は、インドのラージャスターン州ウダイプル。代々続く菓子店を営むチャンパクは、最愛の妻を亡くした後、男手一つで一人娘のターリカーを大切に育てていました。彼は異母兄弟のゴーピーとは商売上のライバル関係にありますが、私生活では互いを気遣う良い兄弟です。幼い頃から海外旅行や海外留学に強い憧れを抱いていたターリカーの夢を、チャンパクも心から応援していました。ターリカーは懸命な努力の末、高校が提携するロンドンの大学への留学奨学生に選ばれるという快挙を成し遂げます。

喜びも束の間、チャンパクは高校の総会で、ターリカーの奨学生推薦にゴーピーからの賄賂が関わっていたことをうっかり口にしてしまいます。この失言により、清廉潔白を装っていたチェダ判事とその妻であるチェダ校長の面目は丸つぶれとなります。翌朝、チャンパクは謝罪のためチェダ夫妻の自宅を訪れますが、怒りに燃えるチェダ校長は、彼の目の前でターリカーの推薦状を破り捨ててしまいます。推薦を取り消されたチャンパクは、娘の夢を何としても叶えようと、自らの力でターリカーをロンドンへ留学させることを決意します。

チャンパクは、ロンドンに住む友人バブルーの助けを借りて、ターリカー、そして騒動の発端となったゴーピーと共にロンドンへ向かいます。大学が始まるまでの滞在先を探すためでしたが、ロンドンの空港に到着した際に、チャンパクとゴーピーは入国審査官に不正確な英語で「麻薬を持っている」と誤解される発言をしてしまい、身柄を拘束されてしまいます。二人は強制送還され、パスポートには入国拒否の記録が残されてしまいます。

一人ロンドンに残されたターリカーは、自立した生活を送る中で、ロンドンの自由な空気を満喫しつつ、学費を稼ぐために働きます。一方、インドへ戻されたチャンパクとゴーピーは、ドバイにいるフィクサー、トニーの協力を得て、パキスタン人名義の偽造パスポートを入手し、再びロンドンを目指します。ロンドンに到着した二人は、偶然出会った女性警官ナイナに怪しまれますが、なんとか難を逃れ、ナイナと別居中の母サンパダ・コーリの家にしばらく滞在することになります。

念願叶ってターリカーと再会したチャンパクでしたが、ロンドンでの生活を満喫し、以前とは変わった様子の娘を見て少なからずショックを受けます。父の期待とは異なる娘の姿に、二人の間には微妙な溝が生まれてしまいます。ある晩、サンパダは自身の誕生日前祝いとして、チャンパク、ゴーピー、ターリカー、バブルーを招いて夕食会を開きますが、そこにナイナが現れて口論となり、気まずい雰囲気になってしまいます。翌朝、床に倒れているサンパダを発見したチャンパクとゴーピーは、慌てて彼女を病院へ運びます。幸いサンパダは一命を取り留めましたが、病院に駆けつけた娘のナイナは、母の看病の大切さに気づき、深く反省します。

チャンパク、ゴーピー、バブルーは、ターリカーの学費を捻出するため、大学が主催する資金集めイベントに参加します。そこで彼らは、改修工事への入札という形で多額の寄付を募っていることを知り、やむを得ず30万ポンドという高額な入札を行ってしまいます。しかし、その大金をどうやって用意するか見当もつかず、三人は途方に暮れます。翌朝、チャンパクたちが廃品回収場で換金できる物を探している時、同行していたターリカーは、父や叔父が自分の留学のためにこれほどまでに苦労している姿を目の当たりにします。自分の夢のために家族にこれ以上の負担をかけるべきではないと考えたターリカーは、ロンドン留学を諦め、故郷ウダイプルで学ぶことを改めて選択するのでした。

キャスト

チャンパク・ガシテラム・バンサル - イルファーン・カーン
ターリカー・バンサル - ラーディカー・マダン
ゴーピー・ガシテラム・バンサル - ディーパク・ドブリヤル
ナイナ・コーリ - カリーナ・カプール
サンパダ・コーリ - ディンパル・カパーディヤー
バーラシャンカル・トリパティ（バブルー） - ランヴィール・ショウリー
トニー - パンカジ・トリパーティー
ガジュ・ガシテラム・バンサル - キク・シャルダ
ベルラム・バンサル - マヌー・リシ
チェダ判事 - ザキール・フセイン
チェダ校長 - メグナー・マリク
カレッジ・コンサルタント - ティロタマ・ショーム

製作

本作の企画は、前作『ヒンディー・ミディアム』の成功を受けて検討が始まりました。プロデューサーのディネーシュ・ヴィジャンは、続編製作の可能性に前向きな姿勢を示しつつも、慎重な姿勢も見せていました。その後、2018年には続編の脚本作業が進んでいることが明かされ、2019年3月にはカリーナ・カプールの出演が発表され、同年4月から正式に製作がスタートしました。タイトルは『Angrezi Medium』と決定され、ウダイプルでの撮影が始まりました。イルファーン・カーン、ディーパク・ドブリヤル、マヌー・リシは、それぞれ異なったミタイ（インドの伝統的な菓子）店を経営するライバルの親戚を演じています。この他、パンカジ・トリパーティーが旅行仲介者役、プールヴィ・ジャインがイルファーンの妻役（回想シーンなどに登場）としてキャストに加わっています。同年7月中旬には、監督のホーミー・アダジャニアがSNSを通じて撮影終了を報告しました。

音楽

映画音楽は、サチン＝ジガルとタニシュク・バーグチーが作曲を担当し、作詞はサチン・サーライヤ、タニシュク・バーグチー、プリヤー・サーライヤが手掛けました。楽曲の中には、前作『ヒンディー・ミディアム』で使用された「Ik Jindari」のリメイクである「Ek Zindagi」や、バングラの人気曲「Nachna Onda Nahin」のリメイクである「Nachan Nu Jee Karda」が含まれています。また、サチン＝ジガルが以前手掛けた楽曲「Laadki」もリメイクされています。特に注目を集めたのは、女性のエンパワーメントをテーマにした楽曲「Kudi Nu Nachne De」で、この楽曲のミュージックビデオには、アーリヤー・バット、アヌシュカ・シャルマ、カトリーナ・カイフなど、多くのボリウッド人気女優たちがカメオ出演しています。

公開と反響

主演のイルファーン・カーンは、公開を前に自身の健康状態によりプロモーション活動に参加できないことをファンに伝えていました。映画は2020年3月13日にインドで公開されましたが、直後にインド全土で新型コロナウイルス感染症対策のためのロックダウンが実施された影響を受け、劇場での上映は早期に打ち切られました。劇場公開での苦戦を強いられた後、本作は2020年4月6日からDisney+ Hotstarにてデジタル配信が開始され、多くの観客がオンラインで作品を鑑賞する機会を得ました。イルファーン・カーンは、本作公開後の4月28日に残念ながら逝去し、『イングリッシュ・ミディアム』は彼の遺作として、ファンや映画関係者の記憶に深く刻まれることとなりました。

興行収入については、公開初週末の3日間で合計約9030万ルピーを記録しましたが、その後の劇場閉鎖により、十分な成績を収めるには至りませんでした。

もう一度検索