インドとケニアの二国間関係

インド洋に面し、地理的に近い位置にあるインドとケニアは、古くから深い交流の歴史を持っています。特に近代においては、インド共和国（1947年建国）とケニア共和国（1963年独立）の間で、多岐にわたる外交関係が築かれてきました。この関係は、歴史的な背景、特にケニアにおけるインド系住民の存在に強く影響を受けています。

歴史的経緯

インドとケニアの商業的、文化的つながりは数世紀前までさかのぼることができます。近代に入り、大英帝国の植民地時代には、ウガンダ鉄道建設などに従事するために多くのインド人労働者がケニアに移住しました。彼らの子孫は、今日においてもケニア社会における重要なコミュニティを形成しています。

インド独立運動が高まるにつれて、インドの指導者たちは東アフリカ、特にケニアにおけるインド系移民の待遇改善に関心を寄せました。1924年にはモンバサで東アフリカインド人会議が開催され、著名な独立運動家であるサロージニー・ナーイドゥが議長を務めたこともその表れです。1934年にはK. P. S. メノンが現地調査のために派遣されています。

インド独立後間もない1948年、新生インド政府はイギリス領東アフリカを担当する弁務官事務所をナイロビに開設しました。当時のケニアでは、先住民であるケニア人とインド系住民との間の人種間関係が悪化しており、インドの初代首相ジャワハルラール・ネルーは、事態の沈静化と関係改善を目指し、経験豊富な外交官アパ・パントを初代駐ケニア高等弁務官として派遣しました。ネルーはまた、後にケニアの初代大統領となるジョモ・ケニヤッタを含むケニア・アフリカ民族同盟の指導者たちに対し、ケニア国内のインド系住民を他のケニア国民と同等に扱うよう働きかけを行いました。こうした努力にもかかわらず、人種間関係の緊張は続き、一部のアジア系住民がインドやイギリスなどへ移住する結果も招きました。しかし、こうした困難な時期を経て、インドとケニアの経済協力はむしろ活発化し、発展途上国同士の協力関係、いわゆる「南南協力」のモデルケースとして注目されるようになりました。

1963年にケニアが独立を達成すると、両国は正式な外交関係を樹立しました。インドはナイロビに高等弁務官事務所を設置し、モンバサには副高等弁務官事務所が置かれました。ケニアもニューデリーに高等弁務官事務所を開設し、バングラデシュやスリランカ、シンガポールといった近隣国との外交も兼務しました。インドとケニアは、国際連合、非同盟運動、イギリス連邦、G-77、G-15、環インド洋地域協力連合（IORA）など、多くの国際的な枠組みに共に加盟しており、これらの場を通じて頻繁に連携し、協力関係を深めています。

経済的な結びつき

インドとケニアの経済関係は近年、着実に拡大しています。貿易額は増加傾向にあり、例えば2010年から2011年にかけては総額約24億ドルに達しました。特筆すべきは、このうち約23億ドルがケニアによるインドからの輸入であり、インド側の貿易黒字が非常に大きい点です。現在、インドはケニアにとって6番目に大きな貿易相手国であり、特にケニアへの輸出額においては最も大きな割合を占める国の一つとなっています。インドからケニアへ輸出される主要品目には、以下のものがあります。

- 医薬品
- 鉄鋼製品
- 機械類
- 自動車

一方、ケニアからインドへの主な輸出品は、工業用炭酸ソーダや特定の種類の野菜、茶葉といった一次産品やコモディティが中心です。

ケニア国内では、多くのインド系企業が重要なプレゼンスを示しています。タタ・グループ、エッサール・グループ、リライアンス・インダストリーズ、バーティ・エアテルといったインドの大手企業が様々な分野で事業を展開し、ケニア経済に貢献しています。また、インドの政府系金融機関であるバローダ銀行やインド銀行もケニアで営業しており、両国間の経済活動を支えています。

ケニアはインドからの観光客誘致にも力を入れていますが、両国間を結ぶ直行便の本数が限られていることが課題となっています。現在、ケニア航空がムンバイ＝ナイロビ間およびデリー＝ナイロビ間の便を運航しています。かつては1951年に就航し、エア・インディアにとって2番目の国際路線であったナイロビ便も存在しましたが、2010年に運航を終了しています。

技術・開発協力

インド政府は、技術・経済協力プログラム（ITEC）を通じて、ケニアを含む多くの国々からの研修生を受け入れ、様々な分野での技能向上を支援しています。具体的な協力内容には以下のようなものがあります。

- ケニア人向けの全額給付型奨学金（年間101人分）の提供
- ケニア国内の電力送電網近代化プロジェクトへの融資（インド輸出入銀行による6100万ドル）
- 遠隔教育システムや遠隔医療施設の整備（汎アフリカ電子ネットワークプロジェクトの一環）

インドからケニアへの直接投資額は累計で約15億ドルに上るとされており、その経済的関与の深さを示しています。特に医療分野では、インドから輸出される高品質かつ低価格の医薬品が、ケニアにおける必要不可欠な医薬品の価格を抑え、国民の健康に重要な役割を果たしています。

両国は古来のつながりを基盤とし、政治、経済、技術、文化など幅広い分野で関係を深化させています。ケニアにおけるインド系コミュニティの存在や、国際的な協力枠組みにおける連携は、今後の関係発展においても重要な要素となるでしょう。

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