インブリー事件

インブリー事件

インブリー事件とは、1890年（明治23年）に第一高等中学校（以下、一高）の学生が、波羅大学（後の明治学院）のアメリカ人宣教師ウィリアム・インブリーに重傷を負わせた事件です。

事件の概要

1890年5月2日、一高グラウンドで、波羅大学の野球チーム「白金倶楽部」（後の明学大野球部）と一高野球部との間で試合が行われました。試合は、一高が優勢と見られていましたが、この日は白金倶楽部が6回までに6-0と大きくリードしていました。

インブリーは試合開始に遅れて到着し、グラウンドの正門が閉まっていたため、関係者であることを伝えて入場を求めましたが、英語を理解できない守衛に拒否されました。そこで、インブリーは正門からの入場を諦め、垣根を越えてグラウンドに入りました。これを見た一高の応援団は、インブリーの行為に憤慨し、彼を取り囲みました。インブリーと応援団との間で押し問答が続く中、一人の生徒がペンナイフでインブリーの顔面を刺し、重傷を負わせました。別の説では、石を投げて負傷させたとも言われています。インブリーはすぐに運び出され、試合は中止となりました。

この事件は、在日欧米各誌で「Imbrie Affair」として報道され、一時外交問題に発展しかけましたが、インブリーの配慮により事件は収束しました。事件の背景には、鹿鳴館時代に代表される明治政府の極端な欧米化政策に対する反動があったとされています。

当時、一高生であった正岡子規も応援席で観戦しており、日記に事件の様子を記録しています。

事件の背景

当時の一高は、将来、国を牽引するリーダーを育成するエリート機関であり、学生には高潔な精神が求められていました。寮は単なる住居ではなく、世俗から離れ、高貴な精神を育むための施設とされていました。

一高の垣根は、物理的な境界線であるだけでなく、精神的な境界線でもありました。それは、高潔な精神を育む一高と世俗を隔てるものであり、新入生は入寮式の際にその意味を教え込まれました。そのため、正門を飛び越えることは許されても、垣根を飛び越えることは決して許されませんでした。門限に遅れた際も、寮生は遠回りをしてでも正門まで行くのが習わしでした。

事件当日、柔道部員や寮生たちは、一高が劣勢の試合展開の中、見知らぬ外国人が垣根を越えて近道をしたことに憤慨し、抗議したことが騒動の発端となりました。

まとめ

インブリー事件は、一高の学生と外国人宣教師との間で起きた偶発的な事件ですが、当時の社会情勢や一高の特殊な環境が背景にあると考えられます。この事件は、明治時代の欧米化政策に対する反発や、エリート教育における精神的な価値観など、様々な側面から考察できる興味深い出来事です。

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