イン・ン・アウト

ジョー・ヘンダーソン『イン・ン・アウト』：革新と深遠なる探求

ジャズ史にその名を刻むテナー・サックス奏者、ジョー・ヘンダーソン。彼の豊かな創造性が結実した初期の傑作として、1964年に名門ブルーノート・レコードから発表された3枚目のリーダーアルバム『イン・ン・アウト』が挙げられます。この作品は、ヘンダーソンが自己のスタイルを確立しつつあった時期の録音であり、参加メンバーも当時のジャズシーンを代表する精鋭揃いでした。

録音と参加メンバー

本作は1964年4月10日に録音されました。ヘンダーソン自身（テナー・サックス）を筆頭に、トランペットにはケニー・ドーハム、ピアノにはマッコイ・タイナー、ベースにはリチャード・デイヴィス、そしてドラムスにはエルヴィン・ジョーンズという、錚々たる顔ぶれが集結しています。この布陣は、特にタイナーとエルヴィン・ジョーンズが同時期にジョン・コルトレーン・カルテットの中核を担っていたこともあり、当時最高峰のリズムセクションを擁していたと言えるでしょう。彼らの強固かつ柔軟なアンサンブルが、ヘンダーソンの革新的なプレイを力強く支えています。

音楽性と特徴

『イン・ン・アウト』におけるヘンダーソンの音楽性は、従来のバップの枠組みを踏まえつつも、それを大胆に拡張しようとする試みに満ちています。彼のテナー・サックスからは、バップの定型的なフレーズを時に驚くほど複雑な響きに変え、あるいは極めて自由で入り組んだ即興でありながら、聴く者には論理的で明快に感じさせる類稀なる才能が迸ります。参加ミュージシャンもまた、ヘンダーソンのヴィジョンに応えるかのように、各々の個性を発揮し、スリリングなインタープレイを展開しています。

批評家からも高い評価を得ており、『オールミュージック』のレヴューでは、スコット・ヤナウがヘンダーソンの「型にはまったバップを複雑に響かせ、最も複雑な即興を論理的に聞かせる」能力を絶賛し、録音から30年以上を経てもなお「新鮮に感じられる」と評しています。『ペンギンのジャズ・ガイド』でも3.5ポイントが与えられ、「他のヘンダーソンのブルーノートでのサウンドに比べて、おおむね演奏の熱気は少なめ」としつつも、「その一方で魅力的で深みのあるものとなっている」と、本作が持つ独特の落ち着きと内省的な魅力を指摘しています。

収録曲

アルバムに収録されている楽曲は、ヘンダーソンとケニー・ドーハムによって作曲されています。タイトルトラックをはじめとするヘンダーソン作は、彼のコンポジション能力の高さを証明しており、ドーハムによる提供曲もまた、アルバム全体の多様性に貢献しています。リイシューCDでは、タイトル曲の別テイクもボーナスとして追加されています。

主要な収録曲は以下の通りです。

"In 'N Out" (ジョー・ヘンダーソン) - 10:23
"Punjab" (ジョー・ヘンダーソン) - 9:07
"Serenity" (ジョー・ヘンダーソン) - 6:16
"Short Story" (ケニー・ドーハム) - 7:10
"Brown's Town" (ケニー・ドーハム) - 6:23
"In 'N Out" [Alternate Take] (ジョー・ヘンダーソン) - 9:15 (リイシューCDボーナス・トラック)

これらの楽曲を通して、ヘンダーソンは単にサックスを吹く演奏家としてだけでなく、コンポーザーとしても非凡な才能を発揮しています。

まとめ

ジョー・ヘンダーソンの『イン・ン・アウト』は、1960年代半ばのジャズが持つダイナミズムと創造性を体現した一枚です。ヘンダーソン自身の卓越した演奏はもちろん、集結したミュージシャンたちのインタープレイ、そして記憶に残る楽曲の数々が、このアルバムを時代を超えて聴き継がれる名盤たらしめています。その革新性と深みは、半世紀以上を経た今なお、多くのジャズファンを魅了し続けています。この作品は、ヘンダーソンのキャリアにおける重要なターニングポイントであり、ブルーノート・レコードの豊富なカタログの中でも特別な輝きを放つ傑作と言えるでしょう。

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