ケニー・ドーハム

ケニー・ドーハム（Kenny Dorham、本名：マッキンリー・ハワード・ドーハム、1924年8月30日 - 1972年12月5日）は、アメリカ合衆国テキサス州フェアフィールドで生まれたジャズ・トランペット奏者です。彼はビバップが隆盛を極めた時代を代表するプレイヤーの一人として記憶されています。

キャリア初期とサイドマンとしての功績

ドーハムの音楽家としての歩みは、多くの名門ビッグバンドでの経験から始まりました。ビリー・エクスタイン、ディジー・ガレスピー、ライオネル・ハンプトン、そしてマーサー・エリントンといった著名なリーダーが率いるオーケストラで腕を磨き、その実力を認められます。その後、モダンジャズの最重要人物の一人であるチャーリー・パーカーのクインテットに加わり、ハードバップ黎明期における重要な役割を果たしました。また、アート・ブレイキーが結成した影響力のあるグループ、ジャズ・メッセンジャーの創設期メンバーとしても活動しています。

さらに、彼はセロニアス・モンクやソニー・ロリンズといったジャズ史に名を刻む巨匠たちのレコーディングにもサイドマンとして参加し、その演奏は数多くの名盤に刻まれています。特に、1956年に不慮の事故で亡くなったクリフォード・ブラウンの後任として、マックス・ローチ率いるクインテットに迎えられたことは、彼の高い評価を示す出来事でした。

リーダーとしての活動と独自の探求

多忙なサイドマンとしての活動と並行して、ドーハムは自身の音楽的探求を深め、リーダー作品も積極的に制作しました。1955年に発表したアルバム『Afro-Cuban』は、そのタイトルが示す通り、アフロ・キューバン・ジャズの領域における代表的な作品の一つとされており、彼とサクソフォニストのハンク・モブレーは、ラテン・ジャズの発展に貢献したジャズマンとしてしばしば言及されます。

自身のリーダー・グループとしては、「ジャズ・プロフィッツ」を結成し、1956年にはニューヨークの有名なクラブ「カフェ・ボヘミア」でのライブ録音をブルーノート・レコードから『ラウンド・アバウト・ミッドナイト・アット・ザ・カフェ・ボヘミア』として発表しました。また、1959年にはプレスティッジ・レコードから、抑制された美しいトーンが特徴のリーダー作『クワイエット・ケニー』をリリースしています。

1963年には、当時26歳の新進気鋭のテナー・サックス奏者、ジョー・ヘンダーソンをグループに迎え入れ、ブルーノート盤『ウナ・マス』を録音しました。この共演をきっかけに、ドーハムとヘンダーソンは親交を深め、ヘンダーソンの初期の傑作アルバム『アワ・シング』や『イン・アンド・アウト』などでもドーハムのプレイを聴くことができます。1960年代初頭にはブラジルを訪れるなど、音楽的なインスピレーションを求め活動の幅を広げました。

1960年代を通じて、ドーハムは精力的にレコーディングを行い、ブルーノートやプレスティッジといった名門レーベルに多くの録音を残しています。自身のリーダー作はもちろん、前述のジョー・ヘンダーソンのほか、ジャッキー・マクリーン、シダー・ウォルトン、ミルト・ジャクソンといった多様なアーティストのサイドマンとしてもその卓越した演奏を披露しました。

晩年と影響

ケニー・ドーハムは腎臓病を患い、1972年に48歳でこの世を去りました。

彼のキャリアを通じて、ビバップの語法を受け継ぎつつも、自身のソフトでメロディックなスタイルを確立し、特にラテン音楽の要素をジャズに取り入れることにも積極的でした。共演者には、J.R.モンテローズ、サム・ジョーンズ、ケニー・バレル、ボビー・ティモンズ、トミー・フラナガン、ポール・チェンバース、アート・テイラー、ハンク・モブレー、ホレス・シルバー、J・J・ジョンソン、ケニー・ドリュー、フィリー・ジョー・ジョーンズ、ジョー・ヘンダーソン、ハービー・ハンコック、リチャード・デイヴィスなど、錚々たる顔ぶれが並びます。

彼は派手さはないものの、堅実で洗練された演奏で多くのジャズミュージシャンやファンから尊敬を集めました。その功績は、モダンジャズ、特にハードバップやラテン・ジャズの歴史において、今なお重要な位置を占めています。

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