イ・オ・ン

『イ・オ・ン』は、漫画家・種村有菜が初めて少女漫画雑誌『りぼん』（集英社刊）で連載を行った記念碑的作品です。1997年6月号から同年11月号にかけて掲載され、その内容は単行本全1巻としてまとめられました。これは、種村有菜にとって初めての単行本でもあります。

概要

本作は、ごく普通の女子高校生が突然超能力に目覚め、超能力を研究する天才少年と出会うことで展開される、SFの要素を含むラブコメディです。作者の初期作品でありながら、後の代表作『神風怪盗ジャンヌ』に登場するキャラクターの兄が登場するなど、種村作品の世界観に繋がる要素が見られます。

また、連載終了から長い時を経た2010年 10月22日に発売された『りぼんファンタジー増刊号』にて、13年ぶりとなる新作の読み切りが掲載されました。この続編は、後に『桜姫華伝』第8巻に収録され、さらに文庫版の『イ・オ・ン』にも同時収録されています。

あらすじ

物語の主人公は、平凡な女子高生である粒依音。彼女は、生徒会長の白石広貴からの熱烈なアプローチに辟易としていました。依音は、「恋をするなら夢を追いかけている男性が良い」という価値観を持っており、そのため白石から逃げ回る日々を送っています。

そんなある日、依音は白石から逃げる途中で、同じ高校に通う宝来帝に出会います。帝は超能力の研究に情熱を注いでおり、夢に向かう彼の姿に依音は興味を抱きます。後日、依音はいたずら心から、帝の許可なく彼が超能力研究を行っている小屋に忍び込み、そこで帝が作り出したという、深い青色の不思議な物質を見つけます。

その物質をビーカーから取り出した瞬間、依音の体に強い電流が走り、その衝撃で帝の小屋が火事になってしまいます。同時に自身が宙に浮いていることに気づき戸惑う依音でしたが、帝の誘導を受け、超能力を使ってプールの水を操り火事を鎮火します。しかし、翌日には生徒会長に超能力を使う姿を写真に撮られていたことが発覚。さらに、帝の幼馴染を名乗る謎の転校生、水瀬藍が登場し、依音に対して強い対抗心を燃やします。

様々な困難やピンチが訪れる中で、依音と帝は互いに協力して乗り越えていきます。共に過ごす時間の中で、二人の間には次第に特別な感情が芽生え始めます。

登場人物

粒依音（つぶらぎいおん）
主人公。物を浮かせることができる超能力を持つ少女。幼い頃に父から教わった、自身の名前を唱えることで力を発揮するという「ジンクス」を信じています。幼少期に父の研究室で誤って「物質」を飲み込んだ経験があり、それが帝の作った物質に触れたことで超能力が開花するきっかけとなりました。名前は化学用語の「粒子（つぶ）」と「イオン」に由来します。

宝来帝（ほうらいみかど）
IQ170の頭脳を持つ天才的な少年ですが、熱血でやや子供っぽい面も持ち合わせています。特撮ヒーロー「サイコマン」の大ファンで、正義感が強く、戦隊ヒーローのような活躍に憧れています。校内の小屋で、「T・Y」という人物が残した文献を基に超能力研究を行い、青い「物質」を生成していました。後日談では、終盤で壊れた「物質」を修理する様子や、依音とのキスで超能力が伝染する描写があります。

水瀬藍（みなせあい）
物語途中で転校してくる少女。負けず嫌いな性格で、帝の幼馴染であり、彼に好意を寄せています。超能力に憧れる帝のため、自身も念動力を習得しました。当初は帝と行動を共にする依音に敵意を向けますが、次第に依音の実力や人柄を認め、親友となります。名前は作者の友人である漫画家、水瀬藍から取られています。

白石広貴（しらいしこうき）
生徒会長。クールに見えますが、依音に対しては異常なほどの執着を見せます。かつては超能力を信じていましたが、サイコマンのショーの裏側を知って以来、現実主義者となりました。そのため、超能力を研究する帝や依音に対して様々な嫌がらせを行います。依音に惚れたのは、彼女の言葉に励まされたことがきっかけで、その際に依音に結んでもらったリボンを大切に身に着けています。後日談でも依音へのアプローチは続いています。

東大寺昴（とうだいじすばる）
依音のクラスメイトで、帝とは以前からの知り合い。科学研究に熱心な青年です。後の作品『神風怪盗ジャンヌ』にも登場し、科学者として主要人物・東大寺都の兄という設定が追加されています。

田吾作（たごさく）
白石生徒会長の手下のような存在ながら、時折依音に協力することもある謎多きキャラクター。作者の高校時代から存在したキャラクターとされ、他の種村作品にも同名のキャラクターが登場しています。

依音の父（粒結城 - つぶらぎゆうき）
依音の父親で、既に他界しています。超能力の研究者であり、帝が研究に用いた文献の著者でもあります。幼い依音が自身の開発した「物質」を誤飲した際、能力を制御するためのパスワードを娘の名前に因んで「イオン」と設定しました。娘に「ジンクス」を教え込むことで、超能力の開花を促そうとしていたようです。

書誌情報

種村有菜『イ・オ・ン』集英社〈りぼんマスコットコミックス〉1997年12月発売 ISBN 4-08-856053-1
* 種村有菜『イ・オ・ン』集英社（集英社文庫コミック版）2011年5月発売 ISBN 978-4-08-619248-4
※『りぼんファンタジー』掲載の後日談も同時収録されています。

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