イーハトーボの劇列車

「イーハトーボの劇列車」

作品概要

『イーハトーボの劇列車』は、井上ひさしによる戯曲で、彼が心から敬愛している宮沢賢治の生涯を描いた作品です。この戯曲は1980年に初めて上演されて以来、井上が設立したこまつ座を含む複数の劇団によって再演され続けています。

本作は、若干22歳から35歳までの賢治の姿を4つの特定の時期に焦点を当てて描写しています。特に注目すべきは、賢治の生涯においてその上京に絞った点です。取り上げられる年代は1918年、1921年、1926年、1931年であり、舞台の設定は東京に向かう列車内と東京での滞在先に限られています。

物語は、「心残りを抱えた人々が、来世への旅に出るまでの間に演じる寸劇」という独特の構成を持っており、これが作品に新しい視点を与えています。

井上ひさしのアプローチ

井上は宮沢賢治の全集を徹底的に読み込み、賢治の作品に出てくる登場人物やエピソード、また名言を作中に巧みに織り込んでいます。さらには、賢治の年譜に基づいて舞台を設定し、その中にフィクションを挿入することで、作品全体に深みとリアリティを加えています。

この作品は、井上にとって近代文学者の伝記劇としては初の試みであり、その後、彼はおよそ10年間にわたり、夏目漱石や樋口一葉、石川啄木、太宰治、魯迅などの劇も手掛けることになります。

主な登場人物

• - 宮沢賢治: 本作の主人公で、熱心な法華経信者。父親とは信仰において対立し、「理想の農村」を実現すべく奔走します。
• - 宮沢トシ: 賢治の妹。賢治の上京初体験は、彼女の看病がきっかけであり、日本女子大学校に在学中に肺炎で入院しました。
• - 宮沢イチ: 賢治の母で、トシの看病に賢治と共に出かけます。
• - 宮沢政次郎: 賢治の父親です。本業は古着商で熱心な真宗信者。賢治が家出同然に上京した際に彼に宗論を挑みます。
• - 福地第一郎: 三菱会社の社員で、妹のケイ子がトシと同じ病室に入院したことから賢治と友達になります。賢治の菜食主義に反して肉料理を勧め、衝突します。
• - 伊藤儀一郎: 花巻警察署の刑事で、賢治が「農民芸術」を学ぶために上京した際に密かに接触します。
• - 淵沢三十郎: 賢治の童話「なめとこ山の熊」の登場人物である猟師の兄弟です。
• - 西根山の山男: 紫紺染の製法を東京で披露するために訪れる人物で、賢治の童話「紫紺染について」のエピソードに基づいています。
• - 少年: 賢治の童話「風の又三郎」に似た存在の少年。
• - 神野仁吉: 人買いでサーカス団長の役割を担い、他のキャラクターを雇います。
• - 赤い帽子の車掌: 何度も登場し、故人たちの「思い残し切符」を渡す役割を果たします。このキャラクターは「銀河鉄道の夜」に登場するキャラクターからインスパイアされています。

まとめ

『イーハトーボの劇列車』は、宮沢賢治の内面的な葛藤や家族との関係を描き出しながら、彼の文学的な遺産に触れる貴重な作品です。その独特な構成と深いメッセージは、観客に多くのことを考えさせる力を持っています。

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