ウィリアム・ウェーバー・コブレンツ

ウィリアム・ウェーバー・コブレンツ(1873年11月20日-1962年9月15日)は、アメリカ合衆国を代表する物理学者の一人です。彼の名は、赤外線分光学における先駆的な研究と、その分野における発展に大きく貢献した功績によって広く知られています。

オハイオ州で生まれたコブレンツは、ケース応用科学学校(現在のケース・ウェスタン・リザーブ大学)を経て、コーネル大学で博士号を取得しました。その後、カーネギー研究所での研究員を経て、1905年には国立標準局(現国立標準技術研究所)の放射測定部門に加わります。そして、1945年に退官するまで実に40年間、同部門に勤務し、その間、赤外線放射の研究に生涯を捧げました。

コブレンツの研究は、主に赤外線の放射と分光学に焦点を当てていました。彼は、様々な化合物の分子による赤外線の吸収を精緻に測定し、そのデータを蓄積していきました。特に、赤外線放射の測定を通じて、物理学における重要な法則の一つであるプランクの法則を実験的に検証した最初の研究者の一人としても知られています。この業績は、量子力学の発展に大きな影響を与えました。

コブレンツの活躍は、物理学のみに留まりません。彼は天文学の分野においても重要な貢献を果たしました。1913年には、放射を測定する精密なサーモパイルを開発し、リック天文台やウィルソン山天文台で、セス・B・ニコルソンと共に100種類以上の恒星、そして火星、金星、木星の赤外線放射を測定する観測プロジェクトを推進しました。これらの観測データは、太陽系惑星の大気や表面温度の解明に役立ち、惑星科学の発展に貢献しました。さらに、ローウェル天文台のカール・ランプランドと共に、火星の希薄な大気によって昼夜の温度差が極めて大きいことを発見するなど、貴重な成果を残しました。

コブレンツの卓越した研究業績は、数々の賞によって称えられました。1911年にはフランクリン協会からハワード・N・ポッツ・メダルを、1920年にはジャンサン・メダルを受賞。1937年にはアメリカ芸術科学アカデミーよりランフォード賞、そして1945年にはアメリカ光学会よりフレデリック・アイヴズ・メダルを授与されました。これらの受賞は、彼の業績がいかに高く評価されていたかを物語っています。

コブレンツの功績を称え、月と火星のクレーターに彼の名が付けられています。また、若手分子分光学研究者を励ますため、コブレンツ協会が設立され、コブレンツ賞が設けられています。これは、彼の業績が次世代の科学者たちを育成し続ける遺産として継承されていることを示しています。

ウィリアム・ウェーバー・コブレンツは、赤外線分光学のみならず、天文学、そして物理学全般に亘る多大な貢献により、現代科学の発展に重要な役割を果たした科学者として、その名と功績は後世に語り継がれることでしょう。彼の精密な観測と分析に基づいた研究は、今もなお、多くの科学者たちにインスピレーションを与え続けています。

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