ウィリアム・カハン

ウィリアム・モートン・カハン

ウィリアム・モートン・カハン（William Morton Kahan、1933年6月5日生まれ）は、カナダ出身の数学者であり計算機科学者である。彼は、その数値解析分野への重要な貢献が評価され、1989年にチューリング賞を受賞。また、1994年にはACMフェローに選出された。カハンは、浮動小数点演算の精度向上に多大な影響を与えたとして、「浮動小数点数の父」と称される。

経歴

カハンはトロントで生まれ、トロント大学で数学の学位を取得した。1954年に学士号、1956年に修士号、そして1958年に博士号を取得する。彼が数学に没頭する中、1953年にプログラミングを習得し、その後コンピュータ領域に目を向けた。1950年代はコンピュータが普及し始めた時期であり、新技術へ触れる機会が多く、彼は当時の技術者たちとネットワークを築いていった。

1960年、カハンはトロント大学で教職に就く。この時、彼はIBM 7090という計算機のソフトウェアを自由に変更する権限を与えられ、浮動小数点演算の精度の問題に取り組んだ。大学院生の研究を手助けし、彼らが直面していた演算不正確さの問題を解決した。この成果は論文としてまとめられたが、カハン自身には問題が解決したという満足感はなかった。1963年に更新されたIBM 7094で同様の問題が再発し、彼はさらなる原因究明に取り組むことになる。

その後、彼はヒューレット・パッカード (HP) にコンサルタントとして招かれ、初のポケット関数電卓HP-35のアルゴリズム改良に関与。これにより計算精度の向上を実現し、Hewlett-Packard Journalで取り上げられることとなった。さらに、HP-10Cシリーズの設計にも関与し、そのマニュアルも執筆した。これらの経験は、彼の後の研究や開発において大いに役立つ。

1976年にはインテルが8087等の浮動小数点数用仕様の設計を行う際、カハンは共同研究者として参加。この時期、IEEE 754の標準策定も行われ、カハンはそのアーキテクト代表として活動した。標準は1985年に策定され、カハンが描いた仕様はほぼそのまま採用された。このため、彼は浮動小数点数に関する技術の設計と標準化において中心的な角色を果たした。

カハンは、1980年代には「paranoia」という有名なプログラムを開発。このプログラムは浮動小数点演算におけるバグを検出するベンチマークとして広く用いられ、1994年にPentiumの除算バグ発見に寄与した。また、彼の名を冠した「カハンの加算アルゴリズム」は、浮動小数点数の合計計算において不可欠な手法として知られている。

さらに、カハンは浮動小数点数演算の教育にも熱心であり、設計に関する誤りに対して厳しい姿勢を見せている。彼は、超越関数を正しく計算する際に抱える困難について、「テーブルメーカーのジレンマ」という表現を使ってその複雑さを指摘している。彼の教育活動や研究成果は、計算機科学の進展に寄与し続けている。彼の努力と成果は、数学と計算機科学の融合において重要な足跡を残している。

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