関数電卓

関数電卓とは

関数電卓は、一般的な電卓の機能に加え、科学技術計算に必要な高度な計算機能を備えた電卓です。初期の製品は、三角関数、指数関数、対数関数などの初等関数を、数表を参照することなく計算できる機能を持っていました。これらの機能が関数電卓と呼ばれるようになった由来です。

歴史

関数電卓の登場以前は、複雑な計算は数表を参照したり、手計算や機械式計算機を用いて行われていました。しかし、関数電卓の登場により、これらの計算がより迅速かつ正確に実行できるようになりました。

初の関数電卓は、1968年にヒューレット・パッカード（HP）が発売した「HP 9100A」です。このモデルは、トランジスタを使用し、CORDICアルゴリズムによる三角関数計算や、逆ポーランド記法（RPN）による入力方法を初めて採用しました。その後、HPは、1972年に初のハンドヘルド型関数電卓「HP-35」を発売し、電卓市場に大きな影響を与えました。

テキサス・インスツルメンツ（TI）も、1974年にハンドヘルド型関数電卓「SR-50」を発売し、教育現場で広く採用されました。カシオ計算機やシャープも主要メーカーとして、多くの関数電卓を開発・販売しています。カシオの「FXシリーズ」や、世界初のグラフ電卓「FX-7000G」が有名です。

機能

関数電卓には、事務用電卓よりも多くの計算機能が搭載されています。主な機能を以下に示します。

数値の取扱と計算順序:
浮動小数点方式による指数表示が可能（例: 1.23E8）。
計算には優先順位があり、括弧を使用して順序を指定可能。
初等関数:
三角関数（sin, cos, tan）、双曲線関数
角度単位の切り替え（度、ラジアン、グラード）
指数関数、対数関数（ネイピア数eを底とするもの、10を底とするもの、任意の底）
冪乗と冪根（二乗、三乗、平方根、立方根）
円周率π、ネイピア数eなどの定数入力
その他の機能:
除算の剰余計算
順列と組み合わせ、階乗
乱数発生
数値丸め機能（小数点固定、切り捨て、四捨五入、切り上げ）
分数計算、約分と通分、仮分数と帯分数の変換
度分秒計算、時間計算
座標変換（直交座標と極座標の相互変換）
複素数、インピーダンス計算
二進数、八進数、十六進数の計算、ブール演算
アンサーメモリー、複数メモリー
物理定数や数学定数の呼び出し
単位換算
数式記憶機能、ユーザー定義関数
分数や方程式を表記通りに計算
上位機種の機能:
微分、積分（数値計算）
行列計算、リスト（ベクトル）計算
統計計算と確率計算
表計算
プログラム機能、グラフ描画
データの保存、通信機能
計測器からのデータ入力
* 外部プリンタ接続

計算の入力方式

初期の関数電卓では、引数を入力してから関数ボタンを押す方式（標準方式）が主流でした。しかし、現在では、数式を左から書くのと同じ順序で入力する方式（数式通り方式）が一般的になっています。さらに、教科書のように数式を表示する数式自然表示も登場しています。HPの関数電卓では逆ポーランド記法(RPN) が採用されています。

形態

関数電卓は、手帳型の専用機が一般的です。数値は10桁から12桁で表示され、指数表示のための桁があります。製品の進化に伴い、複数行表示やドットマトリクス表示の製品も登場しています。また、グラフ電卓は、関数電卓の機能に加え、グラフ描画機能を備えています。

用途

関数電卓は、初等関数の値を求める基本的な用途に加え、物理学、化学、工学などの分野で、複雑な数値計算に使用されます。また、測量や金融などの専門分野に特化したモデルも存在します。資格試験では、特定の機種が持ち込み許可される場合もあります。世界的には教育現場での使用が盛んであり、欧米ではグラフ電卓の需要が高いです。

近年の動向

パソコンやスマートフォンの普及により、日本では関数電卓の利用が減少傾向にあります。しかし、世界的には教育現場での需要は依然として大きく、カシオは年間2360万台の関数電卓を販売し、2025年度には2500万台への販売台数増加を計画しています。

関数電卓は、科学技術計算に不可欠なツールとして、現在も進化を続けています。

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