ウィリアム・ギルバート (物理学者)

ウィリアム・ギルバートの生涯と業績

ウィリアム・ギルバート（1544年5月24日 - 1603年12月10日）は、16世紀のイギリスを代表する医師、物理学者、そして自然哲学者です。彼は、ニコラウス・コペルニクスの地動説を早くから支持し、当時の支配的なアリストテレス哲学と学校教育に異を唱えました。

医師としての業務と並行して、彼は静電気と磁石の研究に没頭しました。特に、1600年に出版された著書『De Magnete（磁石について）』は、彼の名を後世に知らしめることとなりました。この著書の中で、彼は電気（electricity）という言葉を初めて用い、回転する針を用いた検電器「versorium」を発明しました。この検電器は、電気計測機器の先駆けとされています。

ギルバートの研究は、実験を重視した近代科学の先駆けとして、多くの科学者に影響を与え、電気工学や電気と磁気の分野における先駆者と見なされています。彼の姓は「ギルバード（Gilberd）」とも表記されることがあり、コルチェスターの墓碑銘や、彼の名を冠した学校「Gilberd School」でもその表記が用いられています。また、CGS単位系における磁位・起磁力の単位「ギルバート（Gb）」は、彼の名前に由来しています。

生涯

1544年、ギルバートはエセックスのコルチェスターで生まれました。ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジで学び、1569年に医学博士号を取得しました。その後、ロンドンで医師として開業し、ヨーロッパ大陸にも足を運びました。1573年には、ロンドンの医療研究機関である「College of Physician」のフェローに選出されました。1600年には同協会の会長に就任し、1601年から1603年にかけてはエリザベス1世とジェームズ1世の侍医を務めました。侍医としての功績により、ナイトの称号も授与されました。

医師としての仕事の傍ら、ギルバートは20年近くにわたり磁石の研究に励みました。この研究には、ロバート・ノーマンの影響がありました。彼は、地球が巨大な磁石であり、それが方位磁針が北を指す原因であることを実験によって示しました。また、鉄が磁石によって磁化されることや、磁化された鉄を加熱すると磁力を失うことなども明らかにしました。これらの研究には、5000ポンドもの私財を投じたとされています。

1600年、彼の研究成果を集大成した著書『De Magnete, Magneticisque Corporibus, et de Magno Magnete Tellure（磁石及び磁性体ならびに大磁石としての地球の生理）』が出版されました。この著書では、地球の中心が鉄でできていることや、磁石を切断してもそれぞれの断片がN極とS極を持つ磁石になることなどが記述されています。

電気の研究

英語の「electricity（電気）」という言葉は、トーマス・ブラウンが1646年に初めて用いたものですが、これはギルバートが1600年に使用したラテン語の新語「electricus」に由来します。彼は、「琥珀のようにものを引き付ける特性（静電気）」という意味でこの言葉を初めて用いました。ギルバートは、摩擦によって「effluvium（目に見えない放出物）」が取り除かれることで物体がものを引き付けるようになると考えましたが、電荷の概念には至りませんでした。

また、ギルバートは琥珀を帯電させて静電気の研究を行い、静電気の力を「electric force」と呼びました。さらに、回転する針のような検電器「versorium」を発明し、これは世界初の電気計測機器とされています。

その他の研究

同時代の人々と同じく、ギルバートは水晶が水の最も硬化した形態であり、氷が圧縮されることで作られると考えていました。彼は、電気と磁気は異なる現象であると主張しました。その根拠として、静電気を帯びた物体を熱すると静電気は消えるが、磁石を熱しても磁気は消えないことを挙げました。実際には、磁力は熱によって弱まります。電気と磁気が一つの力の異なる側面であることを明らかにしたのは、ハンス・クリスティアン・エルステッドとジェームズ・クラーク・マクスウェルでした。

ギルバートは、惑星の公転や自転が磁気的な引力によるものだと考え、これは当時の多くの科学者も同様でした。彼は、ガリレオよりも20年早く地球の自転を主張しました。さらに、1590年代には世界初の月面地図の作成を試み、望遠鏡を使わずに月の表面を観察し、明暗を図に記録しました。彼は、月面の明るい部分が水で、暗い部分が地面だと考えていました。

1603年11月30日、ギルバートはロンドンで亡くなりました。死因は腺ペストであったと伝えられています。

ギルバートの功績は、その後の科学の発展に大きな影響を与え、彼の研究は、近代科学の基礎を築く上で重要な役割を果たしました。

もう一度検索