ウィリアム・クロフト

ウィリアム・クロフト（William Croft）は、1678年12月30日に洗礼を受け、1727年8月14日に没した、18世紀初期のイングランドを代表する作曲家であり、高名なオルガン奏者でした。

彼の音楽のキャリアは、ロンドンの王室礼拝堂（Chapel Royal）で始まりました。そこで彼は当時の著名な音楽家、ジョン・ブロウに師事し、音楽教育を受けました。1698年までこの王室礼拝堂に仕えた後、1700年にはソーホー地区にある聖アン教会のオルガン奏者に就任し、その技量を披露しました。

クロフトの才能は認められ、1707年には王室礼拝堂に戻ることになります。これは、前任者であるジェレマイア・クラークが若くして亡くなったため、空席となった聖歌隊長（Master of the Children of the Chapel Royal）の職務を引き継ぐためでした。この任期中、彼はモーリス・グリーンなど、後に続く世代の重要な音楽家たちを指導しました。さらに、彼の師であったジョン・ブロウの死後、クロフトは音楽家にとって最高の栄誉の一つであるウェストミンスター大聖堂のオルガン奏者兼音楽監督の地位に就任しました。

彼はまた、イングランド王室の重要な儀式のために数々の楽曲を手がけています。1714年にはアン女王の崩御に伴う追悼のための音楽を作曲し、翌1715年には新国王ジョージ1世の戴冠式のための祝典音楽を提供しました。これらの作品は、宮廷音楽家としての彼の役割の重要性を示すものです。

クロフトの最も特筆すべき業績の一つは、1724年に出版された宗教音楽集『Musica Sacra（聖歌集）』です。この曲集は、教会音楽が印刷された総譜（フルスコア）の形で出版された最初の事例であり、音楽出版史上、極めて重要な意味を持っています。特にこの『Musica Sacra』に収められている《葬儀の典礼（Burial Service）》は、発表されて以来、イングランドの国葬において繰り返し演奏される定番の楽曲となりました。

晩年、クロフトは健康状態が悪化しました。療養のためにイングランド西部の温泉保養地であるバースへ転地しましたが、そこで息を引き取りました。

彼の作品については、後世の研究で一部に議論があります。例えば、ヘンリー・パーセルの作品として長く知られてきたいくつかのチェンバロ（ハープシコード）のための楽曲が、実際にはクロフトの真作である可能性が指摘されており、作品の帰属に関する再評価が進められています。

彼の音楽は、バロック時代後期のイングランド音楽の発展に貢献し、後世の作曲家たちに影響を与えました。

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