ウィリアム・ケント

ウィリアム・ケント：英国風景式庭園の巨匠

1685年、イングランドのブリッドリントンで生まれたウィリアム・ケントは、画家、家具設計家としての才能を持ちながらも、歴史に名を残すのは造園家、そして建築家としての功績によるものです。彼は、現代でいう風景式庭園、あるいはイギリス式庭園の創始者とされており、そのデザインは後の世代の造園、建築に多大な影響を与えました。

輝かしい経歴：ローマでの修行から王侯貴族への信頼へ

貧しい家庭に生まれたケントは、1709年から11年間ローマで絵画を学びます。この期間、彼はサン・ジェラ・ミーノ・ディフィアミンギ教会のキューポラのフレスコ画制作などにも携わっており、芸術家としての基礎をしっかり築きました。

転機となったのは、1719年に第3代バーリントン伯爵リチャード・ボイルと出会ったことです。バーリントン伯爵はケントの才能を見抜き、彼をロンドンへ招き入れ、生涯にわたる支援を行いました。この伯爵との出会いが、ケントの後のキャリアを決定づけたといえるでしょう。伯爵の推薦により、ケントは1726年には建築局のサーベイヤー、1735年には首席建築家および建築総監代理にまで上り詰めます。

興味深いのは、ケントが読み書きが苦手で、衝動的な性格だったという逸話です。しかし、彼は古典主義建築だけでなくゴシック建築の設計にも携わるなど、多様な才能を発揮しました。バーリントン伯爵の指導の下、彼はパッラーディオ主義を基盤とした建築様式を確立していきます。

建築家としてのケント：ホーカム・ホールとその他の作品

ケントは絵画活動のかたわら、建築家としても活躍しました。その代表作が、1734年に設計されたノーフォークのホーカム・ホールです。大理石を用いたアプス状の玄関ホールは、ローマのバシリカとウィトルウィウスのエジプト建築を融合したデザインで、円柱、格天井、そして印象的な階段など、英国建築史において最も重要な室内空間の一つとして評価されています。この建築においては、バーリントン伯爵が設計に大きく関与していたとされています。

ケントはホーカム・ホールのようなカントリー・ハウスだけでなく、カールストン・ハウスなどのインテリアデザインも手がけました。彼のインテリアデザインは折衷様式で、豊かに彫刻が施され、金メッキを多用するなど、非常に装飾的なものでした。これはイタリア・バロック様式やイニゴー・ジョーンズの影響を受けたものと考えられています。実際、彼はイニゴー・ジョーンズの作品集のデザイン編集にも携わっています。

ケントは40代半ばからは建築に専念するようになり、1750年から1758年にかけて発表されたロンドンの近衛騎兵連隊舎は、ホーカム・ホールを踏襲したデザインとなっています。

造園家としてのケント：英国風景式庭園の創造

ケントの真の功績は、建築だけでなく造園にもあります。彼は、当時としては革新的だった「風景式庭園」という概念を確立しました。彼の庭園は、自然と人工物を調和させることで、庭を含めたすべての自然が一つの空間として見えるという、当時としては画期的なものでした。この新しい庭園デザインは、カントリー・ハウスのデザインにも影響を与え、以降、カントリー・ハウスは景観を支配するのではなく、自然と調和するように設計されるようになりました。

ケントの遺産

ウィリアム・ケントは、建築家、造園家、画家、そして家具設計家として、多岐にわたる分野で才能を発揮しました。彼の作品は、英国の建築と造園の歴史に大きな足跡を残し、その影響は現代でも見ることができます。彼は、単なる芸術家や職人ではなく、時代の変遷を反映し、新たな美意識を創造した重要な人物と言えるでしょう。彼の功績を伝える文献は数多く存在し、現代の研究者もその生涯や作品を研究し続けています。 ケントの作品は、建築史、造園史、美術史を学ぶ上で、欠かせない存在となっています。

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