イニゴー・ジョーンズ

イニゴ・ジョーンズ（1573年7月15日 - 1652年6月21日）は、17世紀イングランドを代表する建築家です。彼はイタリア・ルネサンス建築、特にアンドレーア・パッラーディオの様式に深く影響を受け、その建築理論をイギリスに導入しました。ジョージ王朝期のブリテン島におけるパッラーディオ主義の隆盛を決定づけ、イングランドにおける最初の建築家と見なされています。

生涯

ジョーンズは、ロンドンのスミスフィールド周辺で、ウェールズ人の織物工の子として生まれました。幼少期から青年期の詳細は不明ですが、16世紀から17世紀にかけてイタリアで建築を学んだことがわかっています。1598年から1603年にかけての最初のイタリア留学は、第5代ラトランド伯爵ロジャー・マナーズによって資金提供され、画家としての教育を受けました。この留学で、パッラーディオの建築に強い感銘を受け、彼の著書『建築四書』をイギリスに持ち帰りました。

1613年から翌年にかけては、美術品収集家であった第21代アランデル伯爵トマス・ハワードに同行して再びイタリアを訪れました。ジョーンズの詳細なメモが記された『建築四書』が現在も残されており、彼の設計にパッラーディオの影響が見られることがわかります。また、古代ローマの建築家ウィトルウィウスの『建築十書』も参考にしていると考えられています。

帰国後、ジョーンズは王室営繕局長官に任命され、王室や貴族の邸宅の設計に携わりました。彼の代表作としては、ロンドン郊外グリニッジのクイーンズ・ハウス、旧ホワイトホール宮殿のバンケティング・ハウスが挙げられます。バンケティング・ハウスの天井画は、ピーテル・パウル・ルーベンスによって描かれています。また、この建築には義理の甥であるジョン・ウェッブも設計に参加しました。

ロンドンのコヴェント・ガーデン・ピアッツァもジョーンズの設計です。これは、第4代ベッドフォード伯爵フランシス・ラッセルからイタリアの広場のような空間を造ってほしいという依頼に応えたものでした。ラッセルはその後、教会建設を思い立ち、ジョーンズにできるだけ費用を抑えるよう指示しました。その際、ジョーンズは「納屋をつくってくれ」と言われたとされますが、彼は「ヨーロッパ一の納屋」を造ると答えたと言われています。広場の西に建設されたセント・ポール教会は、1798年の火災で焼失しましたが、後に再建され、現在に至っています。

ジョーンズは舞台美術の世界でも活躍し、ベン・ジョンソンの仮面劇の衣装をデザインしました。演劇における舞台美術と劇作のどちらが重要かという議論も二人の間で交わされました。プロセニアム・アーチと移動型舞台装置をイングランドの演劇に導入したのは、ジョーンズの業績です。

また、ジョーンズはイングランド国王チャールズ1世の王妃ヘンリエッタ・マリア・オブ・フランスの依頼により、サマセット・ハウスにローマ・カトリックの教会を建設しました。この教会の建設は、プロテスタントの反感を買い、チャールズ1世への不満を増大させる要因となりました。1642年にイングランド内戦が勃発すると、ジョーンズのキャリアは事実上終わりを迎えました。財産を没収されたジョーンズは、サマセット・ハウスの一室で余生を過ごし、1652年に死去しました。彼の遺体は、ロンドンのセント・ベネット・ポールズ・ウォーフ教会に埋葬されました。ジョン・デナムとクリストファー・レンがジョーンズの後任として営繕局長官に任命されました。

営繕局長官としての権限を利用して、ジョーンズはストーンヘンジの調査も行っています。ストーンヘンジの建設者や建設方法についての彼の結論は、現在では顧みられていませんが、これは記録に残る最初の科学的な調査でした。

18世紀の建築家、リチャード・ボイルやウィリアム・ケントの作品には、ジョーンズの強い影響が見られます。

主な関与建築物

クイーンズ・ハウス：ジェームズ1世の妃であるアン・オブ・デンマークのために建設が始まりましたが、彼女の死によって中断。その後、チャールズ1世妃ヘンリエッタ・マリア・オブ・フランスのために工事が再開されました。
プリシンズ・ロッジングズ：ニューマーケット
バンケティング・ハウス：ホワイトホール宮殿
クイーンズ・チャペル：セント・ジェームズ宮殿、アン・オブ・デンマークのために建設
ストーク・ブルーアン・パーク
ウィルトン・ハウス：弟子のアイザック・ド・コーズが設計、ジョン・ウェッブが修復
リンゼイ・ハウス：イングランドにおける古典主義建築の代表作。ジョーンズの関与については疑問が残ります。
サマセット・ハウス

イニゴ・ジョーンズは、その建築を通じてイギリスの建築に大きな変革をもたらし、後世の建築家にも多大な影響を与えた重要な人物です。

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