ウィリアム・ジェイムズ・リントン

ウィリアム・ジェイムズ・リントン（William James Linton、1812年 12月7日 - 1897年 12月29日）は、19世紀にイギリスとアメリカ合衆国で活躍した、多才な人物です。彼は版画家として名声を確立する傍ら、イラストレーター、著作家としても精力的に活動しました。さらに、アマチュア植物学者としての顔も持ち、特に共和主義を強く支持する政治活動家としても知られています。生涯を通じて政治的理想を追求し、晩年はアメリカで送りました。彼の弟であるヘンリー・ダフ・リントンもまた、版画の世界でキャリアを積みました。

経歴

リントンはロンドンのマイルエンドで、中流階級の家庭に生まれました。15歳の時、彼は木版画職人であるジョージ・ウィルモット・ボナーの工房に入り、見習いとして木版技術を習得しました。1833年には友人ウィリアム・ヘンリー・ポイスと共に、聖書に掲載するための版画を制作し、ジョン・マーティンやリチャード・ウェストールの絵画を版画化しました。ポイスの死後、彼は版画家のジョン・トンプソン（1785-1866）の下で仕事を続けました。1842年には、当時主要な新聞であった『イラストレイテド・ロンドン・ニュース』の主要な取引先だったジョン・オリン・スミス（1799-1843）の版画工房と協力関係を結びます。翌年スミスが亡くなると、リントンはこの工房の経営を引き継ぎました。

政治活動

1840年代初頭、リントンは政治活動への傾倒を深めます。当時ヨーロッパで広がりつつあった共和主義思想に関心を寄せ、イギリスの労働者階級の政治運動であるチャーティズムに共鳴しました。彼はアイルランドやイタリアの民族主義革命家、フランスの共和主義者たちと積極的に交流し、特にイタリア統一運動の指導者ジュゼッペ・マッツィーニとは親しい間柄となりました。1847年4月28日には、オーストリアによるポーランドの一部併合に対応するため、イギリス初の外交問題対処団体として「人民国際連盟」（People's International League）を設立しました。

リントンは1845年10月に初めてパリを訪れ、1843年創刊の新聞『イリュストラシオン』や、パリの出版業者オーギュスト・ログロと版画分野での協力関係を築こうと試みましたが、これは財政的な失敗に終わりました。しかし、1848年3月には再びパリへ赴き、マッツィーニとイタリア代表団に同行して、当時の臨時政府に支援を求めました。同年6月のパリでの政治的弾圧を経験した後、ロンドンに戻った彼は、「赤い扇動者」と見なされるようになります。同年7月15日には、おそらくジョルジュ・サンドの同名の著作に触発されたと考えられる週刊誌『人民の大義』（The Cause of the People）を設立し、マン島で印刷を行いました。この急進的な活動のため、『イラストレイテド・ロンドン・ニュース』は彼からの版画の供給を停止しました。

出版活動とブラントウッド時代

1849年、リントンは版画事業を整理し、所有していた不動産を美術評論家ジョン・ラスキンに売却した後、湖水地方のブラントウッドへと移り住みました。ここでは、7人の子供たちに対し、ジャン＝ジャック・ルソーの教育思想に影響を受けた自由な教育を施しました。また、1848年革命で迫害された多くのヨーロッパの政治難民を受け入れ、彼らの支援にも尽力しました。1850年、彼はジョージ・ヘンリー・ルースやソーントン・リー・ハントと共に、共和主義の機関紙『ザ・リーダー』を創刊しました。しかし、その内容が自身にとっては穏健すぎると感じた彼は、1851年には、短命に終わったもののイギリスの社会主義者ジョージ・ジュリアン・ハーニーが設立した雑誌『The Red Republican』に記事と版画を寄稿しました。その後、ブラントウッドでより過激な定期刊行物『The English Republic』を自ら創刊し、唯一の編集者として活動しましたが、売り上げは振るわず、この雑誌は1855年に終刊しました。1854年には、版画家のウィリアム・ルソン・トーマスらの協力を得て、初の自費出版による定期刊行物を発行。1855年2月には、フランスの画家で版画家のエドモン・モランの支援を得て、定期刊行物『Pen and Pencil』を創刊しました。モランはナポレオン3世のクーデター後にロンドンに滞在しており、弟のヘンリー・ダフ・リントンも彼と共に仕事をしていました。

晩年と評価

1856年12月に最初の妻エミリー・ウェイドを亡くした後、リントンはロンドンに戻り、イライザ・リンと再婚しましたが、職探しには苦労したようです。1866年、詩人ジェラルド・マッセイから借りていたブラントウッドの土地を売却した後、アメリカへの移住を決意し、コネチカット州ハムデンのアップルドアに定住しました。アメリカでは、子供たちと共に自費出版の定期刊行物を運営し、12冊のエッセイや回想録を執筆するなど、著作家としての活動を続けました。彼は1897年 12月29日にその生涯を閉じました。

ジャーナリストのジョージ・サムズ・レイヤードによれば、リントンは著名な木版画家トーマス・ビウィックの伝統を受け継ぎ、独自の精緻な木版画作品を生み出しました。彼は木版画という技法に強いこだわりを持ち、その芸術思想はジョン・ラスキンの考え方にも近く、後のウィリアム・モリスにも影響を与えたと評価されています。また、芸術や政治活動の傍ら、アマチュアとしてシダ植物の研究も行っていました。彼の弟子の中には、著名なイラストレーターとなったウォルター・クレインがいます。

彼の多岐にわたる活動は、19世紀の社会と芸術の交差点において、独特の光彩を放っています。政治的な理想を追求する情熱と、繊細で高度な版画技術とを兼ね備えたリントンは、同時代の多くの人々に影響を与え、後世にもその名を残しています。

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