ウィリアム・ジョーンズ (数学者)

ウィリアム・ジョーンズ（1675-1749）は、18世紀初頭のイギリスを代表するウェールズ出身の数学者です。彼は数学教育、航海術、そして特に円周率を表す記号としてギリシア文字のπを初めて用いたことで後世に知られています。アイザック・ニュートンやエドモンド・ハレーといった当時の第一級の学者と親交を深め、王立協会のフェローにも選ばれるなど、学術界で重要な役割を果たしました。

ジョーンズはアングルシー島のランヴィハンゲル・トレール・ベアード教区で生まれました。貧しい家庭に育ちましたが、地元の慈善学校で数学の才能を見出され、地域の有力者の支援を受けてロンドンへ出ることができました。ロンドンでは当初、商人の会計室で働きましたが、その才能はさらに開花しました。

1695年から1702年にかけては、海軍の船上で数学の指導にあたります。この経験を通じて航海術に深い関心を抱き、数学を応用した航海技術に関する著書『A New Compendium of the Whole Art of Navigation』を1702年に出版しました。この著作では、海上での正確な位置計算など、当時の航海にとって不可欠な数学的手法が解説されています。

海上での任務を終えた後、ジョーンズはロンドンで数学教師として活動しました。裕福な家庭の子息たちの家庭教師を務めることもあり、後のマクルズフィールド伯爵やハードウィック男爵も彼の教え子でした。また、かつての教え子たちの協力もあり、官公庁での職にも就き、安定した生活を送ることができました。

数学者としての主要な著作としては、1706年に刊行された『Synopsis Palmariorum Matheseos』が挙げられます。これは数学の初心者を対象としたもので、微分計算や無限級数といった当時最先端の概念も含まれていました。この著作の中で、彼は円周と直径の比を示す記号として、ギリシア文字のπを採用したのです。πという記号自体は、それ以前にもオートレッドらが円周（περιφέρεια）の省略形として用いていましたが、ジョーンズはこれを特定の数値、すなわち円周率を表すために特化して使用しました。さらに、1711年の著作『Analysis per quantitatum series, fluxiones ac differentias』では、ニュートンが考案した流率法（現在の微分計算にあたる）における微分を表す記号として、変数に点を付ける記法を導入しました。1731年には、自然哲学に関する著作『Discourses of the Natural Philosophy of the Elements』も出版しています。

ジョーンズは、アイザック・ニュートンとエドモンド・ハレーという、当時のイギリスを代表する二人の数学者と親しい友人となりました。特にニュートンからは深い信頼を得ており、彼の死後、その膨大な手稿の編集・出版に尽力しました。また、ジョーンズ自身も科学や数学に関する書籍の優れたコレクションを築き上げましたが、残念ながらその多くは散逸してしまいました。

私生活では二度結婚しています。最初の妻は、彼がロンドンの会計室で働いていた際の雇い主の未亡人でした。彼女の死後、ジョーンズはその財産を相続しました。二度目の結婚は1731年で、家具職人の娘と結ばれ、二人の子供をもうけました。この二度目の結婚で生まれた息子も父と同じウィリアム・ジョーンズという名前ですが、彼はインド・ヨーロッパ語族の研究で知られる著名な文献学者として後世に名を残しています。

ウィリアム・ジョーンズは、πの記号の普及に貢献したことで最も有名ですが、その活動は多岐にわたりました。航海術の発展、数学教育、そしてニュートンの業績の整理・普及にも貢献するなど、18世紀初頭のイギリス科学界において重要な役割を果たした人物と言えるでしょう。

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