ウィリアム・チェゼルデン

ウィリアム・チェゼルデン：外科手術の革新者

ウィリアム・チェゼルデン (1688年10月19日-1752年4月10日) は、18世紀イギリスで活躍した卓越した外科医にして解剖学者です。彼は単なる外科医の枠を超え、外科手術を科学的な医療へと進化させる上で計り知れない貢献を果たしました。その生涯と業績は、現代医学史においても重要な位置を占めています。

初期の経歴と教育

チェゼルデンはイングランドのレスターシャー州サマービーで生まれました。ロンドンで著名な解剖学者ウィリアム・カウパーに師事し、解剖学の基礎を固めた彼は、1710年にロンドンの床屋外科医組合に加入。翌年には王立協会会員に選出されるなど、早くからその才能を認められました。1713年には、画期的な著書『人体の解剖』を英語で出版。ラテン語が主流であった当時の医学界において、英語で書かれたこの本はイギリスとアメリカで16版を重ねるベストセラーとなり、医学教育に多大な影響を与えました。

外科医としてのキャリアと功績

チェゼルデンは、ロンドンの聖トマス病院で下級外科医、そして常勤外科医として活躍しました。聖ジョージ病院の設立にも参画するなど、その高い技量と名声は医学界で揺るぎないものとなりました。彼の主要な業績の一つは、膀胱結石摘出手術の改良です。フランス人医師フレール・ジャック・ド・ビューリーの手法を参考に、側方切石術を開発。従来の正中線切開に比べて人体への負担を軽減し、患者の生存率を飛躍的に向上させました。1723年にはこの手術法に関する論文を発表し、1727年の臨床試験では80例中6例という驚異的な成功率を達成。麻酔技術が未発達であった当時としては、画期的な成果でした。

さらに、チェゼルデンは眼科手術においても重要な貢献をしました。彼は虹彩切除術と人工瞳孔形成術を開発し、盲目疾患の治療に革新をもたらしました。また、消化における唾液の役割に関する研究も発表しています。これらの業績は、当時の医学知識を大きく前進させました。

出版活動と後進の育成

チェゼルデンは解剖学に関する優れた図譜も残しました。1733年に出版された『オステオグラフィアあるいは骨格の解剖学』は、カメラ・オブスキュラを用いた正確な骨格図版を掲載。イギリスにおけるヒト骨格系の精密な描写の先駆けとなりました。

チェゼルデンは後進の育成にも力を注ぎました。1749年には、後に偉大な外科医となるジョン・ハンターを弟子として迎え入れました。彼の指導は、ハンターの後の成功に大きく貢献したと言われています。

王立外科医師会の設立と晩年

チェゼルデンは、1744年には床屋外科医組合の組合長に選出され、翌年には外科手術と床屋業務を分離、独立した外科医組合を設立しました。この組織は後に勅許を得て王立外科医師会となり、現代外科医学の基礎を築きました。チェゼルデンは、慈善事業にも積極的に関わり、孤児院設立にも貢献しています。1751年に病に倒れ、翌年バースで亡くなりました。

チェゼルデンの遺産

ウィリアム・チェゼルデンは、外科手術の技術革新、医学教育の向上、そして外科医の専門職としての確立に大きく貢献しました。彼の業績は、現代医学の発展に多大な影響を与え、今もなお高く評価されています。アイザック・ニュートンの死期を看取り、アレキサンダー・ポープやハンス・スローンとも親交があったという事実は、彼の広い交友関係と社会的地位の高さを示しています。彼の生涯と功績は、外科医のみにとどまらず、医学史全体に大きな足跡を残した証と言えるでしょう。

もう一度検索