ウィリアム・テル (オペラ)

ロッシーニのグランドオペラ『ウィリアム・テル』

ジョアキーノ・ロッシーニ作曲による4幕構成のグランドオペラ『ウィリアム・テル』は、フリードリヒ・フォン・シラーの戯曲『ヴィルヘルム・テル』を原作としています。フランス語のリブレットのため、本来は『ギヨーム・テル』と表記されるべきですが、日本では『ウィリアム・テル』の名で親しまれています。

作品の背景

ロッシーニは、このオペラをフランスのオペラ形式に合わせるため、通常よりも長い5ヶ月をかけて作曲しました。1829年8月3日にパリの王立音楽アカデミー劇場で初演されましたが、この作品を最後に、ロッシーニは30年以上の引退生活に入りました。

『ギヨーム・テル』は、パリ・オペラ座との契約に基づいたグランドオペラであり、以下の要素が求められました。

1. 5幕（または4幕）構成
2. 劇的な題材
3. 歴史的な背景
4. 大合唱やバレエなどのスペクタクル要素
5. 異国情緒

この作品は、オベールの『ポルティチの唖娘』に続くもので、特にスイスの風土や村人の生活を強調したグランドオペラの代表作とされています。民衆の自由への闘いを壮大なスケールで描き、ロッシーニの創作の集大成であるとともに、ロマン主義的グランドオペラの先駆けとなりました。その音楽はロマンティックでありながら、ロッシーニの本質である古典派の要素も持ち合わせ、フランスのグランドオペラの典型を示しています。

初演とその後の展開

1868年2月には、パリ・オペラ座でロッシーニを迎えて500回目の記念上演が行われました。1932年まで、『ギヨーム・テル』はパリ・オペラ座にとって重要な演目であり続けました。アメリカ初演は1831年にニューヨークで、イギリス初演は1839年にロンドンで行われました。

イタリアでは、政治的な理由から上演が制限されました。これは、権力に抵抗する革命的な人物を称賛していると解釈されたためです。一方、ウィーンでは検閲があったものの、1830年から1907年の間に422回も上演されました。日本では、1983年に藤沢市民オペラが初演しました。

現在でも、テノールの高音パートや長尺のため、全編が上演されることは稀で、カットされることが多いのが現状です。フランス語版の本格的な舞台上演は、2024年に新国立劇場で行われました。

楽譜とリブレット

ロッシーニ財団による批判校訂版が決定版とされ、1990年代以降はオリジナルのフランス語版での上演が一般的です。イタリア語改訂版も多数存在しますが、楽譜の版によって訳詩者が異なるなど、混乱が見られました。イタリアでは、検閲の影響で作曲家が関与しない翻案も行われていました。

リブレットは、シラーの『ヴィルヘルム・テル』を基に、ヴィクトール＝ジョゼフ・エティエンヌ・ド・ジュイとイポリット＝ルイ＝フローラン・ビスによってフランス語で書かれました。原作では控えめな恋愛要素が、オペラではアルノールとマティルドの恋愛として強調されています。また、第2幕の三重唱では、原作とは異なる展開が描かれています。

演奏時間と楽器編成

演奏時間は約4時間で、各幕80分、50分、65分、45分となっています。これは、当時のパリで流行していたマイアベーアのグランドオペラに匹敵する規模です。

楽器編成は、木管楽器、金管楽器、打楽器、弦楽器、ハープに加え、舞台裏にホルン、ハープ、鐘が配置されます。

序曲

序曲は四部構成で、切れ目なく次の楽節へと移ります。

1. 夜明け: 5つのチェロによるゆっくりとした楽節で始まります。
2. 嵐: フルオーケストラによるダイナミックな楽節です。
3. 静寂: イングリッシュホルンがメロディーを奏でます。
4. スイス軍隊の行進: ホルンとトランペットで始まり、フルオーケストラへと広がるダイナミックなギャロップです。

あらすじ

舞台は14世紀のスイス。物語は、スイスの指導者メルクタールの息子アルノールと、オーストリアのハプスブルク家の皇女マティルドの秘密の恋から始まります。圧政に苦しむスイスの人々の独立への動きと、それぞれの愛と葛藤が描かれます。

第1幕: 湖畔の祝祭で、オーストリアの圧政を憂うテルは、アルノールに抵抗運動を訴えます。総督ジェスレルの横暴により、メルクタールが人質に取られます。

第2幕: マティルドと愛を確かめ合うアルノールは、メルクタールが殺されたことを知り、復讐を誓います。リュトリの丘で、スイスの愛国者たちが決起を誓います。

第3幕: アルノルドとマティルドは別れを告げます。ジェスレルの圧政にテルが反抗したため、息子の頭上のリンゴを射るよう命じられます。テルは見事成功しますが、ジェスレルはテルを逮捕します。

第4幕: アルノールは決意を新たに独立戦争を始めます。テルは護送中にジェスレルを射殺し、スイスの独立を勝ち取ります。アルノールとマティルドは愛を確かめ合い、民衆は自由と平和を喜びます。

主なアリア

「先祖伝来の住処よ」（Asile héréditaire） - アルノール
「じっと動かずに」（Sois immobile） - テル
* 「暗い森」（Sombre forêt） - マティルド


『ウィリアム・テル』は、その壮大なスケールと美しい音楽で、今もなお多くの人々に愛され続けている作品です。

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