ウィリアム・ヘイズリット

ウィリアム・ヘイズリット：多才な批評家の人生と時代への鋭い視線

ウィリアム・ヘイズリット (1778-1830) は、18世紀から19世紀にかけて活躍したイギリスを代表する批評家、随想家、そして作家です。今日では「ハズリット」の名で広く知られています。牧師の家庭に生まれ、多様な経験と才能を開花させた彼の人生と、時代を鋭く反映した著作の数々を見ていきましょう。

ケントからアメリカ、そしてロンドンへ

ヘイズリットは、ケント州メイドストンでユニテリアン派の牧師の四男として誕生しました。父はアメリカ独立戦争の植民地側への共感を強く持ち、家族とともにアメリカへと渡り、その後イギリスへ帰国、ロンドンを経てシュロップシャーのウェムに落ち着きます。幼少期から父や兄による教育を受け、ラテン語や絵画を学びました。ユニテリアン・ニュー・カレッジに入学するも、牧師の道には進まず、文学と芸術の世界へと進むことになります。

文学と芸術へのめざめ、そして画家としての修業

ウェムでの生活は、ヘイズリットの知的探究を深めました。イギリス、フランスの哲学書に没頭し、セルバンテス、ボッカチオ、ラブレー、モンテーニュといった古典作家への造詣を深め、エドマンド・バーク、ジューニアス、ルソーを特に愛読しました。1798年には、ウェムを訪れた詩人サミュエル・テイラー・コールリッジと出会い、ワーズワース兄妹とも交流を持ちます。同年、ロンドンで展示されたイタリア絵画の巨匠たちの作品に感銘を受け、1804年頃までは肖像画家としての修行に励みました。この頃、生涯の友人となるチャールズ・ラムとも親交を深め、ラムの肖像画も描いたと言われています。

ジャーナリスト、批評家としての成功と波瀾万丈の私生活

1808年、ヘイズリットは結婚しますが、1823年には離婚という憂き目に遭います。その後再婚するものの、この結婚も長くは続きませんでした。私生活は波瀾万丈でしたが、一方、ジャーナリスト・批評家としては成功を収めていきます。1811年にはロンドンで哲学に関する連続講演会を開催し、名声を高めました。下院の傍聴席で議会報告を行い、新聞に発表する仕事からジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、『エディンバラ評論』『イグザミナ』『チャンピオン』『ロンドン・タイムズ』など多くの雑誌に批評やエッセイを寄稿し、講演活動も積極的に行いました。

『ロンドン・マガジン』では、ジョン・スコット、リー・ハント、ラムらと共に主要な寄稿者として活躍します。1826年から1830年にかけては、ナポレオンの伝記編纂に尽力しました。晩年は貧困と孤独に悩みながらも執筆を続け、息子のウィリアムとラムに見守られて52歳で生涯を閉じました。「まあ、幸せな人生だったな」という言葉を残して。

シェイクスピアからナポレオンまで：多様な著作群

ヘイズリットの著作は多岐に渡り、シェイクスピアの戯曲論『シェイクスピアの劇の諸性格』、随想集『円卓』、イギリス演劇史に関する著作、詩人や喜劇作家に関する講演録、そしてナポレオンの伝記などがあります。これらの著作は、ヘイズリットの鋭い洞察力と、時代に対する深い理解を示しています。現代にも通じる、人間性と社会への深い考察が特徴です。彼の著作は、今もなお、多くの読者を引きつけてやまない魅力に満ち溢れています。

ヘイズリットの遺産

ヘイズリットは画家、ジャーナリスト、批評家、そして随想作家として、多様な才能を開花させた稀有な存在でした。彼の著作は、単なる批評や評論にとどまらず、時代精神を鋭く捉えた深い洞察と、ユーモアと機知に富んだ表現に満ちています。シェイクスピアからナポレオンまで、幅広い主題を扱った彼の作品は、現代においても高く評価されており、その思想と文体は、多くの作家や批評家に影響を与え続けています。彼の生涯は、才能と困難、成功と挫折が複雑に絡み合った、まさにドラマチックなものでした。しかし、その人生の軌跡と残された言葉は、私たちに今もなお、多くの示唆を与えてくれます。

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