ウィリアム・ペニー

ウィリアム・ジョージ・ペニー男爵（1909年6月24日-1991年3月3日）は、イギリスの著名な数学者にして物理学者でした。その輝かしいキャリアは、第二次世界大戦中から始まり、戦後のイギリスにおける核開発に多大な貢献を果たしただけでなく、教育者としてもインペリアル・カレッジ・ロンドンの学長職を歴任するなど、幅広い分野で活躍しました。

ペニーの初期の経歴は、科学への並々ならぬ情熱で彩られています。ジブラルタル生まれの彼は、幼少期から科学への才能を示し、奨学金を経てインペリアル・カレッジ・ロンドンで数学の学位を取得。その後、オランダやアメリカでの研究生活を経て、ケンブリッジ大学で博士号を取得しました。彼の才能は、学界だけでなく、国家レベルの重要プロジェクトでも発揮されることとなります。

第二次世界大戦下の1942年、ペニーは、イギリスの秘密裏に進められていた核計画、「高性能爆薬研究」に参画します。このプロジェクトは、1952年のイギリス初となる原子爆弾実験成功に結びつきました。また、彼はアメリカ合衆国のマンハッタン計画にもイギリス代表として参加。ロスアラモス研究所では原子爆弾の被害予測の計算を行い、1945年8月9日には、長崎への原子爆弾投下を上空から観測しています。戦後には、広島と長崎の被爆地を調査し、その爆発規模の計算結果を発表しました。これらの経験は、彼の核兵器開発への関与を決定づけることとなります。

戦後、ペニーはイギリスの核兵器開発を主導する立場に就きます。イギリス核兵器局を指揮し、1952年の「ハリケーン作戦」におけるイギリス初の核爆弾実験を成功に導きました。その後も、英国原子力公社（UKAEA）の首席顧問、議長を歴任し、部分的核実験禁止条約の国際交渉にも参加。核兵器開発において、技術的な面だけでなく、国際的な外交面においても重要な役割を果たしました。

ペニーの科学的業績は、衝撃波や重力波の研究に代表される複雑な波動力学の数学的解明にも及びます。彼は流体力学における最適化問題の解決策を提案し、材料科学や冶金学にも貢献しました。特に有名なのが、クローニッヒ・ペニーモデルであり、これは周期ポテンシャルにおける電子の挙動を記述するモデルとして、現在でも固体物理学で広く用いられています。

1967年から1973年にかけては、インペリアル・カレッジ・ロンドンの学長を務め、教育者としての才能も発揮しました。学長在任中には、大学の急速な拡大、財政難、学生運動など、多くの困難な問題に対処する必要がありましたが、彼はその手腕を発揮してそれらを乗り越えました。

晩年は、核実験の安全性問題にも向き合いました。1985年のマクレランド王立委員会では、オーストラリアでの核実験における放射性降下物に関する証言を求められ、その経験が彼の健康を害したともいわれています。1991年、癌により逝去しました。

ペニーの功績は多岐にわたります。核兵器開発における指導的な役割、流体力学や固体物理学への貢献、そして教育者としての業績は、科学史に大きな足跡を残しました。しかし、同時に彼のキャリアは、核兵器開発という倫理的な問題とも常に隣り合わせにあったことを忘れてはなりません。彼の生涯は、科学技術の進歩と倫理的な責任の葛藤を象徴するものでもあります。彼の業績は、現在でも様々な分野で研究され、議論の対象となっています。

もう一度検索